『帰らざる氷河』 美内すずえ
今回もスカッとする……という言葉はちょっと当たりませんが、すごく感動的で、ある意味スカッとするともいえる作品をご紹介します。
作者は、名作『ガラスの仮面』があまりにも有名な、美内すずえさん。
でも、その連載がスタートする1年前、すでにこんな傑作読み切りが世に送り出されていたのです。
【あらすじ】
圧倒的な声と歌唱力で大人気の、歌姫オデット。世界的に活躍する彼女が、意を決して訪れたのが、北欧サルビア国だった。
実はサルビア国は、オデットが生まれた国。彼女は本名をエリナといい、サルビア国王と愛し合った母が産み落とした、国王の娘だった。
母子はその後、王と離れて山奥にこもり、静かに暮らしていた。
だが苛烈な性格の王妃が、母子に刺客を差し向ける。
母は殺され、なんとか逃げのびたエリナは、ひとり各地を放浪する孤児となった。
飢えや追手に苦しみながらさまよう中で、彼女の生きる糧は、路上で歌って金銭を得ることだった。歌手だった母譲りの美声だったのだ。
彼女は名前をオデットと変え、歌い続けることでどんどん実力をつけていく。
そして、敏腕プロデューサーであるアレックスの目にとまり、歌手として全米でデビュー、またたくまにスターダムにのぼりつめる。
しかし彼女は、サルビア国が母子にした仕打ちを忘れてはいなかった。恨みは強く、いつか国に戻り公演し、その最中にすべてを暴露するつもりでいた。
そんな決意を秘めた当日──。貴賓席には、病を押して公演を観に来た国王がいる。その隣には、オデットの目的を見抜き、新たな刺客を用意した王妃がいる。
三者三様の思いの中で、はたしてオデットは歌えるのか。
彼女の歌は奇跡を呼ぶのか。
いま、公演の幕があく。
(1975年 別冊マーガレット掲載)
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一応、絵柄の説明を。ご存じのとおり「これぞ少女漫画」と言いたくなる、きらびやかな絵柄です。
ヒロインのオデットは、キラキラした大きな瞳と長い睫毛、ロングヘアをなびかせた美少女。
彼女の相手役になるアレックスは、ストレート黒髪、これもロングヘアの美青年。
まだ少女だったオデットを見出したとき、アレックスはすでに名高いプロデューサーだったので、ふたりの年の差はそれなりだと推測します。
でも、もちろん作中で年の差は問題にもなりませんけどね。
かたや貧しくも才能あふれる少女、かたやそれを見出す敏腕の美青年。つまり。
紫のバラの人……!
マヤ、おそろしい子……!(注・月影先生に当たる人は出てません)
『ガラスの仮面』を彷彿とさせる部分はほかにもあります。
たとえばガラかめ(勝手に省略)の魅力の一つは、マヤが演じる劇の面白さですよね。
原作つきであれ作者様のオリジナルであれ、どれも作り込まれていて面白いです。
『帰らざる氷河』も同じで、作中に歌が何曲も出てくるのですが、その歌詞がちゃんと書いてある。全部じゃなくても「この歌、聴いてみたい」と思えるように書いてある。
すごい、漫画だけでなく作詞まで……。今回再読して、あらためて驚きました。
でも、もちろん一番魅力的なのはストーリーです。
壮大でドラマチック。ダイナミズムあふれる展開。
そして迎える、最高のクライマックス!
わずか70ページ程度の長さなんです。そこに必要要素をすべて入れ込み、クライマックスで締める構成力……。
いまさらながら驚嘆します。そして思うんです。
もしこれがミュージカルとして舞台化されたら、すごいだろうな。
誰もが立ち上がってブラボーを叫ぶだろうなって。
というわけで。
独身時代にミュージカルを観まくっていた私としては、心の底から訴えたい。
東宝さん、劇団四季さん、なんならアレックスの出番を大幅にふやして宝塚さんでもかまいません。
なぜ、この名作を放っておくの?
国産ミュージカル、作りたいでしょ? 大成功させたいでしょ?
ここに最適な作品がありますよ。
早く気づいてくださいねー!




