『わたり鳥は北へ』 河あきら
今回は、河あきらさんの作品をご紹介します。
このかたは1950年生まれとのことなので、前回出てきた「花の24年組」かなと思ったんですが、そのグループとはちがうみたい。
ちなみに、このお名前ですが女性です。
【あらすじ】
落ちこぼれの女子高校生、あさみは優秀な父母や姉とうまくいかず、冴えない毎日を送っている。
そんな彼女がひょんなことから親しくなったのが、ヤクザの使いっぱしりの若者、次郎。彼はいまの生活が楽しくなかったため、岩手の実家に帰ろうとしていた。
彼と意気投合したあさみは、家出して一緒に岩手に行くことに決める。
その旅費を作るため、二人はあさみの家から金を巻き取る偽装誘拐を思いつく。だが拙い計画は失敗し、次郎は持っていたピストルで警官を撃ってしまう。
なんとか警察から逃げたものの、彼は完全に犯罪者となってしまった。
次郎はあさみに、被害者の顔をして家に帰れと説得するが、あさみは拒否する。彼女はもう親のもとには戻りたくなかった。
そしてはじまる逃避行。危ない場面を切り抜けるうち、二人の絆はどんどん深まっていく。
ハラハラする中にも訪れる、休息の時。笑い合い、はしゃぎあう時間。
それはあさみにとって、家族や学校から解放されて心から笑顔になれた、はじめての時間だった。
けれどそんな時は長くは続かず、追手が二人を追いつめて──。
(1974年 別冊マーガレット掲載)
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絵柄の説明です。
お話からお察しの通り、少女漫画につきもののお花やお星さまとは縁のない、飾り気ゼロの絵柄です。
でも女子はちゃんと目が大きくてかわいい。そして男性はすごくスリム。
長い脚にジーパン(死語)、ヒッピー(死語)風の長髪と時代感満載だけどかっこいいです。
何より、男女ともに表情がすごく生き生きしていて、動きがあるのが魅力的。
そして、ストーリーですが……。
いやもう切ない。痛々しい。
次郎くんがちょっとお調子者っぽい軽めの性格で、あさみちゃんもシリアス美少女ではありません。
だからコミカルなシーンも多く、親近感があってとても読みやすいんです。
それだけに、やがて来るラストが……(涙)。
正直、自業自得だとは思うんですよ。最初の計画からして甘くて、成功するわけない。
向こう見ずな若者たちの、おバカな行動としか言いようがないので、うまくいくはずないんです。
でも──。
若さゆえの無鉄砲さ、一途さ、純粋さ。
自由に憧れ、幸せになりたいと願う心。
お互いの存在を信じあっている、眩しい笑顔。
はじめてラストを読んだときは、衝撃と感動で頭が真っ白になりました。
実は私、そのとき小学生だったんですね。
単行本で一気読みでした。
自分自身が若すぎたので、お話の本当の意味は理解できなかったと思います。
上に並べたのは、大人になってやっと言葉にできた感想。
でも「人生ではじめて感動した漫画はなんですか」と訊かれたら、迷わずこの作品をあげます。
そして、ここからは勝手な妄想ですが……。
これ、2時間ドラマにならないかなあ。もちろん現代風に変えなきゃだめだけど、長さ的にもスペシャルドラマに向いてると思うんですよね。
いまだっているでしょう。たとえば東横に集まってオーバードーズしている若者たち。
若者と大人の構図は普遍的だと思うんです。
で、キャスティングは売り出し中の新人アイドルたちを持ってくるの。演技の拙い感じが、逆に合うと思う! テレビ局さん、どーだ!
……は置いといて(笑)。
ウィキによると、河あきらさんは「大人の無理解とモラトリアムを描いたシリーズ」を五作描かれていて、通称BAD・AGEシリーズと呼ばれているとのこと。
私も一作目以外は読んでいます。
でも、その一方コメディ短編もたくさん描かれていて『わたり鳥』の単行本に同時収録されている三作も学園またはホームコメディでした。
そこが救われた部分もあります。私、本来はバッドエンド苦手なので……。
河あきらさんで一番有名な作品はきっと、コメディ連載の『いらかの波』かな。
シリアスなモラトリアムを描きながら、コメディセンスも抜群。
しかも大人たちに対する目線もやさしいところが、すごい漫画家さんだと思います。