『バナナブレッドのプディング』 大島弓子
今回ご紹介するのは、萩尾望都さんと同じ「花の24年組」のお1人である、大島弓子さんの作品です。
24年組というのは、昭和24年前後の生まれで、1970年代に少女漫画を牽引した女性漫画家たちのこと。ほかに竹宮恵子さんとか山岸涼子さんとか、そうそうたる顔ぶれです。
でも、大島弓子さんの作風は、そういった方々とは全然ちがいます。深遠なのは同じですが、とにかくとにかくちがうんです。
【あらすじ】
高校生の三浦衣良は情緒不安定になっている。なぜなら自分の唯一の理解者だった姉が結婚してしまうから。
両親は可愛がってくれてはいるが理解はなく、あまつさえ自分を心療内科につれて行こうとしている。
幼馴染のさえ子は、そんな衣良に何か夢はないのかとたずねる。衣良の答えはこうだった。
「世間に後ろめたさを感じている男色家と偽装結婚して、彼が本当の恋人(男)と会うための隠れ蓑になってあげたい」(←意訳です)
つまり、こんな自分でも、そういう役目をすることで誰かの役に立ちたい、というわけ。
それを聞いたさえ子は、自分の兄の峠(←名前)に結婚相手を依頼する。そうすることで、衣良が精神的に落ち着くだろうと考えたのだ。
峠はノーマルなプレイボーイだったが、軽い気持ちでそれを引き受け、ふたりは偽装結婚という名の同棲をはじめる。
ところが衣良は、途中で結婚が芝居だったことを知ってしまう。そして自分がいつのまにか、峠自身に惹かれていたことにも気づく。
ショックで家を飛び出し、錯乱して人を傷つけてしまう衣良。
そんな衣良を、峠はやさしく包み込む。彼もいつしか、衣良の純粋さに惹かれていたのだ。
衣良も落ち着き、彼の言葉を受け入れる。それは彼女が、異性にはじめて心をひらいた瞬間でもあった。
(1977~1978年 月刊セブンティーン連載)
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………こんな話ではありません。
いえ、こんな話です。本物の男色家とか複数出てきて、もっともっと複雑だけど、ストーリーとしてはこんな話だと思います。
だけど、ストーリーをいくら説明しても、その魅力を百分の一も伝えられないのが、大島弓子作品の偉大さなんですよね。
ほかの作品群を見てもそう。これはもう「実際に読んでたしかめてください」としか言いようがありません。
自分の言葉だけじゃ説得力がないので、ウィキや他サイトで記憶を補強してからこれを書いているんですが、ウィキはこう表現しています。
>ヒロイン三浦衣良の、ある意味幼い心理と異常行動を通じて、思春期の心の変動を描いた 哲学的要素のある名作。
うん、その通りだと思います。思春期の、まだ幼く繊細すぎる心の揺れ。
大人の目には異常としか見えない言動。
そして思春期だけにとどまらない、人生哲学!
じゃあどんな哲学かっていうと「個人個人で好きに哲学してください」という感じで、作中ではほとんど答えが出ていません。
ラストが衣良の姉の手紙で終わっているのですが、それに答えが書いてあるわけでもない。
ただ、未来への希望や愛情、やさしさが満ちたその雰囲気が心地よく、当時、何度も何度も読み返した覚えがあります。
だって、私も思春期だったから。
読書って内容もだけど、時期も大切ですよね。大島弓子さんの作品を読むと、特にそう思います。
あ、大切な絵柄の説明をしていませんでした。
絵は華やかなタイプではなく、わりとざっくりした線だと思います。
でも衣良ちゃんは髪を頭の上、両サイドでおだんごにしていてかわいい。ほどくとウエーブロングヘア。
峠さんはストレート長髪を束ねたイケメン。
画面にはよくヒナギクみたいなお花が散ってます。こんな画面で、語ってることは哲学なんですよね。
ちなみに大島弓子さんの作品で一番有名なのは、かの「チビ猫」だと思います。
仔猫の擬人化。ネコ耳、エプロンドレス美少女の草分け!
めちゃかわいいので、知らないかたはぜひ『綿の国星』でググってみてくださいね。