『11人いる!』 萩尾望都
前回に続き、萩尾望都さんの作品です。
前回冒頭でトーマのことを「もしかしてタイトルさえ知らない人が多数だったりして」と呟いたんですが、冗談になっていなかったことに慄く私……。
でででも、今回のは有名ですよね? ね?
【あらすじ】
人類が宇宙に進出し、各惑星で活躍する未来。
宇宙大学の最終試験は「受験生が10人づつのグループに分かれて宇宙船に乗り込み、外部とコンタクトしない状態で53日間過ごす」という協調性テストだった。
だが、主人公タダ(タダトス)が乗り込んだ船には、最初から難題が待っていた。10人のはずの船内になぜか11人もいたのだ。
大学とコンタクトをとると、その時点で試験失格となってしまうため、それはできない。
11人目は誰なのか。正体も目的もまったくわからず、受験生たちは疑心暗鬼になっておたがい反目しあう。
そんな中でもタダは、性別が未分化の受験生フロル(性ホルモンを投与されて性別を決める星の出身者)と親しくなり、心を通わせる。
ほかの受験生たちも次第に打ち解け合い、一同には、ともに合格をめざす者どうしの結束が生まれていく。
あらたな危機がいくつも訪れ、そして迎えた思わぬ事態。それでも──。
彼らは、明るい未来を自らの手でつかみとっていく。
(1975年 別冊少女コミック連載)
────
まず絵の説明から。
トーマとほぼ同じ時代に描かれているので、絵柄は同じように繊細で綺麗です。
でも、舞台はほぼ宇宙船の中のみ。みんなの衣装は身体にぴったりとした宇宙服。美的要素はほとんどありません。
ただしフロル以外は(笑)。
タダは黒髪、細いヘアバンドで前髪を上げていて、まじめな好青年といった印象。
対するフロルは、金髪の巻き毛を長く伸ばした、美少女ともみまごう外見の持ち主(注・性別未分化)。
このフロルが、画面の華を一手に引き受けているわけですが、十分すぎるほどの華なのがフロルのすごいところです。
何しろ、江戸っ子を思わせる元気いっぱいな性格なので。
さてストーリーですが、これを書くにあたってウィキを見ていたら(どうしても頼ってしまう……)こんな文章を発見しました。
>少女マンガ初の本格的なSF作品で、それまで少年マンガしか読まなかった読者や、小説家・文化人にまで大きな影響を与えた。
そうだったのか……と、すごく感慨深く思ってしまいました。
というのもこの漫画は、中学生だった私にはじめて「SF」というジャンルがあることを教えてくれた、記念すべき作品なんです。
最初に読んだときのワクワク感を、いまもよく覚えています。
宇宙船という閉鎖空間にも関わらず、生き生きと動き回る登場人物たち。
ハイテンポで畳み掛けていく展開。
謎また謎。
最後に用意された、感動的な決断。
そして、さわやかな光あふれる大団円!
こんな面白い作品があったのか、とカルチャーショックを受けました。
でも、私だけじゃなかったんですね。
たくさんの人たちがこの作品に影響されて、その後の文化を作っていった……。そのことを知って、あらたな感動を覚えます。
「初の本格的SF」とありますが、私の記憶だと萩尾望都さんは、もっと初期からSF設定の作品をいくつか描かれていたように思います。
ただ短編だった(気がする)ので、メジャーな世界に打ち出した長編としてははじめての、という意味でしょうか。
そしてご存じのように(ご、ご存じですよね……)その後も傑作SFを次々に描かれていくわけですが、切なかったりシビアだったり難解だったりと、どんどんコアになっていくので、けっこう読者を選ぶ作品群かと。
実は私も未読のもの多数……。
そんな中、この『11人いる!』は本当にさわやかなハッピーエンドで、SFを読まない人たちにも広く受け入れられています。
スペースオペラにして密室ミステリー。
しかも恋と友情がもれなくついた、極上エンターテイメントなのです。