『トーマの心臓』 萩尾望都
最初だから誰でも知っている巨匠の名作を……と思ったけど、もしかしてタイトルさえ知らない人が多数だったりして……。
でででも、萩尾望都さんのお名前はご存じですよね? ね?
【あらすじ】
ドイツのギムナジウム(高等中学)の寄宿舎に転入してきたエーリク。
ところが同室になった優等生ユーリ(ユリスモール)は彼にひどく冷たく当たる。彼だけではない。ユーリはほかの誰にも心を開かない、孤高の少年だった。
しかもユーリは、自分を慕う下級生トーマを拒絶し、その後トーマが陸橋から飛び降り自殺をはかってしまうという過去を持っていた。
トーマは、自分の命をかけてまでユーリの心を開こうとしていたらしい。しかしその遺書さえも破り捨てるユーリ。
なぜなのか。どうしてそこまで拒むのか……。
最初はユーリを嫌っていたエーリクだが、彼を少しづつ知るうちに、自分自身がどんどんユーリに惹かれていくことに気づく。
ユーリの親友であるオスカーの力も借りながら、彼の心に入り込んでいくエーリク。やがて、ユーリにもついに希望の光が……。
(1974年 週刊少女コミック連載)
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絵を載せることができれば、一目瞭然で世界観がわかるんですが、それができないので漫画の紹介は難しいですね。
少しでも想像していただくために、まず絵的な説明をしようと思います。
絵柄は、繊細で丁寧でとても綺麗です。
ユーリは黒髪で冷たい風貌の美少年。トーマはさらさら金髪の少女のような美少年。
エーリクは可愛くやんちゃな、オスカーは大人びた色気のある美少年……。
そこに男子校寄宿舎とくれば、それだけで美味しすぎる設定なわけですが、加えて制服(黒スーツ)の品格、同級生や先輩たちの賑わい、時には花を散らす華やかな画面には、唸るしかありません。
あ、まずい。なんか絵だけでいくらでも語れてしまう。萩尾望都さんの絵柄では、この頃のものが個人的に一番好きなので……。
でも、もちろん重要なのは絵だけじゃありません。
ストーリーも本当に美しい、というより尊いです。
ウィキを見たら「人間の愛という普遍的かつ宗教的なテーマを描いた作品」と書かれていました。
まさに、その通りだと思います。
あえて言いますが、問題点がないわけじゃないんですよ。
私としては、あれほどやさしくいい子だったトーマがユーリのために自殺する、というのは、やっぱり承服しかねるものがあります。
そんなことで死なないでー、親の気持ちも考えてー。なんて、大人になって再読したら、つい言いたくなってしまいました。
でも、それでもなおかつ。
この作品には、人生に必要なテーマのすべてが入っていると思っています。
生きること。死ぬこと。
愛すること。赦すこと。信じること。
恋。友情。家族。
絶望、そして希望。
それらについての答えは、読む人それぞれによって違うと思うのです。
でも、ひとつの作品……単行本にしてたった3冊(出版当時)の中に、それらのテーマすべてが入っている作品が、ほかにあるでしょうか。
主役の二人だけではなく、周囲の少年たちも大人たちも、自分の人生を必死になって生きている。
短い中でそれがわかる、描写力の素晴らしさ。
しかもラストは、わずかな切なさを残しつつも、すべてが癒され心洗われるハッピーエンド……。
ラストシーンの美しさは忘れられません。
あらすじには書きませんでしたけど、お察しの通り、この作品はBLです。
当時そんな言葉はなかったけれど、プラトニックな少年愛を描いています。
でも私としては、少年というより「性がない」ように思えるんですよね。だからこそ、こんなに清らかな作品になっているんじゃないかと。
男女だったら、たぶんこうはいきません。
特にトーマは天使。天使だから、人のために身を投げて天に還ってしまってもしかたなかったのかな……そんなふうにも思えます。
あ、駄文つけたし。
わたしのユーザ名は柚里ですが、ユリスモールのファンなわけではないので念のため(嫌いじゃないですよもちろん)。
私の推しはオスカーです、オスカー。
私の脇役好きの象徴。萩尾望都さんの他作品にも何度も出演し、全キャラ中で一番人気と思われる、彼です!
と、最後が締まりませんでしたが、未読のかたがいらしたら、おすすめです。
萩尾望都さんといえば、『ポーの一族』が代表作で有名ですが、この『トーマの心臓』も、少女漫画史に輝く、唯一無二の名作だと思っています。