水辺の恐怖
水系の恐怖短編を、いくつか。
俺は水辺が苦手だ。
それは子供の頃の記憶と結びついて、今の俺は水辺に近寄ることすら怖くてできない。
ちなみに今の住まいは高層マンションの最上階。
なぜかと言うと水辺から最も離れたところだから。
ちなみに水辺が怖いだけでプールとかは大丈夫。
泳ぐことも可能、1kmくらいは平気で泳げる(海や川はダメだが)
今日も朝から雨……
雨は憂鬱だ、心まで萎えそうになる。
こんな雨だと子供の頃の、ある光景を思い出しそうになる……
弱気になりそうな自分を励ましつつ、俺は買い出しに出る。
備蓄してた食料・飲料水などが減って、買い増ししないと備蓄にならない。
こんな日に外出すること自体、本当は避けたいが仕方がない。
俺は地下駐車場から車で近くのホームセンターへ行く。
俺の住んでる地域は、この高層マンションが地域内でもずば抜けて高く、他には一軒家(平屋・二階建て)ばかりの、まあ言ってみれば大都市から少し離れた、あまり都市化されてない田舎である。
なので、大きなホームセンターに行かないと後は付近のコンビニへ行くしかないという極端な買い物不便地域だ。
「嫌だなぁ……」
俺はつぶやく。
ホームセンターのすぐ近くを二級河川の大きな川が通っている。
カーナビ地図で言うと、その川にかかる端を通らなくても俺のマンションからはホームセンターに行ける、行けるんだが……
到着。
ホームセンターの屋上駐車場へ車を停めた俺は、しのつく雨の中、大量の買物を済ませる。
精算も終わり、帰ろうとすると全館にお知らせが。
「ピンポンパンポーン♪お客様及び従業員の方々にお知らせします。只今、気象庁より豪雨警報が発令され、また、この豪雨が長時間続くと思われますとのこと。当ホームセンターとしては後一時間後に営業を中止し、全館臨時休業とさせていただきますので、お買い物のある方は手早くお済ませください。また、すぐ近くの河川が溢れる可能性もありますので、お客様と従業員は、至急、帰宅または避難される事をおすすめいたします……ピンポンパンポーン♪」
お、早く帰らねば!
俺も帰ろうとしたが運の悪いことに客と従業員の帰宅時間がかち合い、出口が詰まる。
車の中で出口の混雑解消を待つしかない俺はカーラジオを点ける。
「……只今、豪雨警報と河川周辺住民への避難警報が出ました。対象地域の皆様は冷静に、落ち着いて避難してください……」
おいおいおい、不味い!不味いぞ!
それでなくとも、ここは水辺に近い……
そう俺が焦っているとラジオが、
「**川の土手が切れたという情報が入ってきました!対象となる方たちは、至急、避難してください!」
**川って、このホームセンターのすぐ近くの川じゃないか!
焦る俺の周辺にも段々と水が……
とりあえずホームセンターの屋上へ戻る。
地上の出口はダメだと思ったのは俺だけではないようで10台をこす車が来た。
さて、とりあえずは大丈夫だが……
ここで俺は、ここすらヤバイと気づく。
「水辺じゃねえか、まるっきし……」
川の土手より、ずっと高いはずの屋上駐車場だが、俺は合羽を来てフラフラと車から出る。
手すりから下を見ると、もう二階駐車場は水の中。
そこから、俺にとって見慣れた影が……
【おにいちゃーん……いっしょに、いこうよー……】
増えてきた泥水の中から、小さな女の子が手招きしてる……
あれは、マリちゃんだ。
俺が小学校3年の頃、幼稚園生マリちゃんはお隣さんだった。
俺に懐いて、何処へ行くにも俺についてきた……あの日も。
お隣さんの一家と俺んちとで川辺でキャンプすることとなり、俺が川辺の崖近くで遊んでいると、マリちゃんがやってきて……
何を思ったのか崖近くに立っていた俺目掛けて、マリちゃんは猛ダッシュ!
そこで俺に正面から当たったら、今は俺のほうがあの世に行ってただろう。
マリちゃんを見つけて、俺が体を捻っていたため、マリちゃんは俺の脇をかすめて崖から……
警察と地元消防の力でマリちゃんが発見されたのは、それから3日後。
俺の親も、お隣さんの両親もマリちゃんが猛ダッシュしているのを見ていたので、俺が咎められることはなかったが……
「ああ、マリちゃん。一緒に行こうか。俺を連れて行ってくれ……」
俺がそうつぶやくと、真っ黒な泥水はグイと持ち上がり、俺の足をとって水底へ……
「今日の水難事故者は1名……不思議なことに同じところに避難していた方たちやホームセンターから脱出した方たちも無事でした……目撃者の証言ですと、不意に水面が盛り上がり、小さな手が水中から伸びて犠牲者の両足を掴んで引きずり込んだと言うんですが……まさかねぇ」
ニュースは、そう報じた。