第九話
「ちょっとあんた。」
五月に入り、少し学校に慣れてきたころだ。音楽部の活動も基礎練を中心に進めていて、もうすぐ曲の練習に入ろうというところまで個々のレベルは上がってきた。
そして今、昼食を一緒に食べようと待つ、来夏とこのみのもとへ行こうと思ったら薄い橙の髪をサイドテールに束ねた女子生徒に呼び止められた。
少女の態度は、はっきりと言って敵対的だった。その眼にはプラスな感情を読み取れず、まるで親の仇に向けるような視線だった。
とりあえず彼女が何者かを知らなかったので
「誰ですか?」
と尋ねると、
「同じ音楽部の夢里萌よ。あなた、一体どういう手段で望月君をグループに引き入れたの?彼は、彼の歌声は私と合わせてこそ輝くものなのに。
あなとのような素人と合わせたら彼がもったいないし、不憫でしかないわ。」
と要領を得ないことを言った。
「...何を言っているかよくわからないけど、望月君に特に何かをした覚えはありません。」
それじゃあと、その場を去る。彼女はまだ何か言っていたが気にしないことにする。
*
「さっき、薄いオレンジの髪の人...確か夢里さん?に話しかけられたんだけど、何か知ってる?」
先にテーブルで待っていた二人に聞く。
「ああ、夢里さんね。結構な有名人じゃん。」
「有名人なの?」
「逆に星華は知らなかったの?美人で歌が上手いとかで部内でも話題になってたけど。」
「へ、へぇ...そうなんだ。」
初耳である。
「にしてもなんて話しかけられたの?二人の歌姫の邂逅の瞬間!!」
「いや、なんか望月君をどんな手段で私たちのグループに引き入れたのかって。それで私たちと組んでる
彼が不憫だって。」
「それ、喧嘩売られてるんじゃ...」
「感動的な邂逅とはならなかったか…」
このみが変なところで落ち込んでいるが放っておくことにする。
「まあ、でも夢里さんの気持ちもわからなくはないんだけどね。」
来夏によると、彼女は幼いころからボイトレに通ったりして、将来歌手になるための研鑽を積んできたそうだ。今では路上ライブを行うと大勢の囲まれるほどの実力をもっているらしい。
「ただ嫌味を言ってくる人かと思ったけど努力の人でもあるんだね。」
「それでも言っていいことと悪いことがあるとは思うけどね...」
面倒なことにならなければいいが...
テスト週間のため少々更新が不安定になります(貯蓄は使い果たしもうした)