第八話
全員集合して近くのファミレスに行き、先ほどの出来事を共有すると、
「まじか。歌えるようになったか。」
「次に聞けるのはいつかな。」
「早ちとりはだめだけど、もし本当に歌えるようになってたら...よかったな、星華。ずっと苦しんでいたから。」
と様々な反応を受けた。
「でもどうして永田さんは歌えるようななったんだろう。」
「うーん確かに。私はどうして歌えるようになったのか...」
岸君の言う通り、自分がどうして歌えるようになったのかは知っておきたい。
次、同じことがあっても大丈夫なように。
あってほしくはないが。フラグではないが。
「少しいいかな?」
「どうしたの?望月君。」
「永田さんのトラウマの内容が気になるんだ。
どうしても話したくないっていうならいいんだけど、聞けばこの答えがわかるかもしれない。」
私のトラウマの内容...か。
「いいけど、大したものじゃないよ。ただ両親が目を合わせず、話しかけても相手にしてくれない。それどころか私を避ける...そんな情景が頭の中によぎるの。」
すると、聞いているみんなが少し顔を俯けて、空気が暗くなる。
「なんか、聞いて申し訳なくなるな。」
「全然、私は気にしてないから。」
そう答えると、空気は元通り流れ、皆思案するような顔になる。
「両親が相手にしてくれない...子供を助ける...」
「いや...多分キーになったのは昔の子守歌じゃないか?」
「人を助ける...」
各々意見を出し合っていく。すると来夏が、
「多分なんだけどさ、トラウマの解決した一番の要因は、星華の人間関係にあると思う。
ずっと一緒にいた中で今の星華には味方が多いんだよ。主にあなたたちとかね。
どうやってトラウマができたのかはわからないけど、きっと昔のことを思い出した時に、自分の周りに頼れる味方がいるっていうことを思ったんじゃないのかな。」
確かにその可能性はある。
トラウマが出来たあの頃の私とは違って、支えてくれるみんながいる。
もう一人じゃない。
そう思えるようになったのが一番の要因なのかもしれない。
*
「というわけで、カラオケではトラウマの克服ができなかったけど、結局お出かけの目的は達成できたね!」
「いやー次の部活が楽しみだ。まだ永田さんの歌声は陽ちゃんの評価でしか聞いてないからな。」
夕方になり家がこの地域にある岸君以外は全員駅に向かって歩いている。
「にしても、星華。本当によかったな。」
「?」
「久しぶりに星華の歌が聞けるのか。何年ぶりかな。」
心の底から安どしているような表情の来夏に言葉が出ない。
来夏との仲は長いが、このような表情は初めてみた。
「心配かけてごめん。」
「星華が謝る問題じゃないんだがな。謝るべきはこのトラウマを作ったやつだ。」
「ふふふ。」
つい笑ってしまう。
「おいおい。どうして笑うんだよ。」
困った顔をする来夏に答える。
「来夏が私の代わりに怒ってくれるから、なんだかね。ふふ。」
「はあ。...ふふ、はははは!」
「なんだか二人とも楽しそうだね!」
二人で笑っていると、少し前を歩いていたこのみたちが振り返る。
そうか、私はもう一人じゃないんだな。
吹き抜ける風に乗った桜の花びらがどこまでも澄み渡る青空に舞って行った。