第七十二話
「星華さんはひょっとして...」
「ねえ、陽大君。」
星華さんに直接たずねようとすると、さえぎられる。
「陽大君ならどうする?
私と同じような立場になった時。もう二度と同じ思いをしたくないって思ったら。」
「...」
「私はね、思ってしまったの。あんな思いをするくらいなら一生一人で生きていった方がましだって。」
彼女の言葉の持つ重さのあまりに何も言えない。
「それで実際、一人で生きていこうと思った。
ただ、そういう心理で生活をしている上で気づいたの。
私たちは誰も一人では生きていけないって。
家事は祖母に手伝ってもらって、登下校の暇な時間は来夏と話して、忘れ物をしたら友人に助けてもらう。」
「...」
「私は一体どうしたらいいんだろう。最近ずっと考えてるの。」
星華さんの問いかけへの返答を考える。
「...星華さんは本当はどうすべきなのか、分かってるんじゃないのか?」
はっと息を飲む音がした。
「中学までより、多くの人と出会いを持つような自分に少しでも変えるために音楽部に入った。
違うのか?」
「...私...は...」
「この壁だって乗り越えなくちゃいけないって分かっているんじゃないのか?」
「...」
下を向いて静かになってしまった星華さんに優しく声をかける。
「星華さん。」
すると、目を潤ませた星華さんが顔を上げて言った。