第七十話
次第に泣き声が落ち着いていき、星華さんが口を開いた。
「...陽大君はどうしてそんなに私に優しくしてくれるの?」
心底不思議そうな顔で尋ねてくるので、
「そんなの簡単だよ。星華さんであろうと誰であろうと目の前に傷ついている人がいたら助けたくなるだろ?」
と返すと、
「ふふっ、なにそれ。はぁ、ずるいなぁ陽大君は。」
「ずるいって...」
「まあまあ。」
星華さんの顔に笑顔が戻りほっとする。
そこで思い切って聞いてみる。
「ところで...俺を振った理由を聞いてもいい?」
「...ほんとに陽大君に原因はないんだよ?」
「それでも、知りたいんだよ。」
「...分かった。じゃあ話すけど、最後まで聞いてね?」
「もちろん。」
*
昔から歌うことが大好きだった。
暇さえあれ大声で歌っていた。
私にはどうやら歌う才能があったらしく、周りの人々は私が歌うと拍手をくれた。
いつも最初に、そして誰よりも大きく私の歌をほめてくれたのは両親だった。
私はそんな両親のことが大好きだった。
しかし、そんな日々はいつまでも続かなかった。
崩壊のきっかけは私が発症したのどの病気だった。
突然声を出せなくなった私に両親は驚き、そして、どう接すればよいのかわからなかったのだろう。
私を避けるようになり、目すら合わさることがなくなった。
手術を受け、無事喉が回復して、両親とこれで元通り住めるようになると思っていた。
当時、手術と通院のために一時的に祖母の家に住まいを移していた。
喉が回復したことへの喜びから毎日が楽しかった。
来夏と言う唯一無二の親友も得て、さらに両親との平穏な生活が戻って来て、充実した日々が訪れると思っていた。