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第七話

 頭が割れるように痛い。


 まただ。また”あの”情景が頭に浮かぶ。


 あの、孤独で、寂しいあの情景が。


 大好きだった両親に逃げられる情景が。



.........




「...ちゃん!...ちゃん!星華ちゃん!」


「っは。」


 そうだ、そういえば班のメンバーでカラオケに来ていたんだった。


 それで、みんな一通り歌って、私の番になって、歌おうとして...気を失ったんだ。



「大丈夫か、永田さん?」


「星華、急に倒れたから心配したよ。まあすぐ気が付いたからよかったけどさ。」


「ごめん。俺がカラオケに行こうって提案したばかりに。」



 みんなが声をかけてくれる。



「大丈夫。それに香坂君も謝らないで、私もこれを克服したかったから来たんだし。」



 まあ、駄目だったけど、と内心付け足す。



「それじゃあ、気分転換に街歩き、しに行かないか?」



 重くなった空気を追い払うように望月君が提案する。



「いいね。そうしよう。」


「賛成!!」



 というわけで、カラオケは終了、街歩きをすることになった。



 カラオケ店は大きな商店街付近にあり、街歩きをするには最適の場所である。



「見て!あそこのクレープ屋さんおいしそうじゃない?」


「またそういって。太っちゃうよ、このみは。」


「んまあダイエットは明日から頑張るもん!」


「絶対やらないやつじゃん。」



 私たちは楽しく街を散策していた。


 ちょうど桜が散る時期ということもあって、街の景観は非常に美しかった。


 舞い散る花びらと通りにそって並ぶ建物たち。自然のものと人工物でなじまないかというと全くそうではなく、むしろ、これはこれでいい、という独特の風景を作り出していた。


 街歩きをして三十分ほど。



「私、このショップ気になるから入りたいな!」


「じゃあ俺はその間にこっち行ってるわ。」



 女子二人と男子三人で別れてショップに入っていった。私はどちらにも特に興味がなく、それよりもこの街の容貌を目に焼き付けておきたくて外で待っていることにした。


 その待っている時だった。



「うわぁぁぁぁぁぁぁん。」



 近くで小さな女の子が一人で泣いている。どうやら迷子のようだ。

 しかし、周りを歩いている人は、ある人は冷ややかな目を送り、ある人は友達との会話に夢中で気づかず、ある人は見て見ぬふりをしてその子どもの相手をしようとしなかった。


 私は、自分でも気づかないうちに、勝手にその少女の方へ歩いて行っていた。

 どうしてだろう。昔の私に重ねたからだろうか、いや、今はそんなことはどうでもいいい。



「大丈夫だよ、どうしたの?」


「ひっく、ひっく。迷子に、なっちゃって。ひっく。」



 とにかく、この子を親の元へ帰してあげることを考えよう。迷子センターは...こっちか。



「それじゃあ、こっちに行こうね。こっちに行けばきっとお父さんお母さんに会えるから。」


「う、うん。ひっく。」



 三分ほど人ごみの中を歩き、無事迷子センターに着いて、スタッフの方に少女を預ける。



「もう大丈夫だからね、きっともうすぐ迎えに来てくれるから。」


「うん。ありがとう、お姉ちゃん!」



 両親とすぐに再会できることを理解して、すぐに明るくなった少女に手を振る。

 そしてもとに戻ろうと歩き出してふと思い出す。



「昔、こんなことがあったな。」



 私がまだ幼稚園の頃、家族三人でショッピングモールへ行ったときの話だ。


 お手洗いへ行った母を父と待っていた時、仕事の疲れがあったのだろう、父が居眠りをし、その間に私の姿を見失ってしまったのだ。

 母が戻ってきたときに私の姿はなく、あったのは居眠りする父の姿だけ。大慌てで辺りを探し回ったと、後に聞いた。



「そういえば、歌が好きになったのもこの時だったな。」



 両親とはぐれ、孤独を味わっていた私を両親のもとへ帰してくれた人が、ぐずる私を落ち着かせるために歌ってくれた子守歌を聞いて、歌の魅力に取りつかれたのだ。


 その人は言っていた。



『歌は、自分のためだけに歌うんじゃない。聞く人の事も考えて歌うんだ。』



 先ほどの少女の顔を思い浮かべながらふと頭に浮かんできた歌を口ずさむ。


 すると、



「私...歌える?」



 あのトラウマを思い出すことなく歌うことができたのだった。

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