第六十三話
少し考えてから萌が口を開いた。
「多分だけど、恋心すら塗りつぶす、押しつぶすような強い感情を持っていたんじゃないかしら?」
「強い感情?」
すると、ちょうどそこに来夏がやって来た。
「何をこそこそ話してるの?」
「こそこそ...」
「いい所に来たわね、来夏。確かあなたは萌と小学生のころから一緒じゃなかったかしら?」
「そうだけど。どうかした?」
声を静めて萌が尋ねる。
「ここだけの話、星華の様子ががらっと変わったことってなかったかしら?」
「がらっと?」
しばらく目を閉じて遠い記憶の引き出しを開ける。
「...そういえば...」
そして思い出したことを語り出した。
*
「今日から、みんなとクラスメイトになる、永田星華ちゃんよ。じゃあ自己紹介をしてちょうだい。」
「はい!みなさん初めまして!永田星華と言います!好きなことは歌うことです!よろしくお願いします!」
初めて見た星華の印象はとにかく明るい子だな、ということだった。
「それじゃあ、あそこの、窓際の空いてる席に座ってね。」
「はーい!!」
席が隣という何気ない理由で知り合い、あっという間に馬が合って友人関係となった。
仲良くなって、星華の事をたくさん知って思った。
これほど表裏のない人間がいるのだろうか、と。
誰に対しても明るく、優しく接する彼女はまさしく太陽だった。
だからこそ、あの時はわかりやすかった。