第六十話
暗い夜道を二人でいろいろ話しながら歩く。
話題は音楽部の事や勉強の事など様々な分野に飛び、そして家族の話に飛んだ。
「それにしても陽大君の家族はとても仲がいいんだね。」
星華さんに言われて苦笑する。
「まあ、うちは何というか、母さんがいないから余計に結束力が強くなったって感じかな。
それに、父さんがあんな感じで、明るいからさ。」
この日常があるのも、あの時背中を押してくれた星華さんがいたからだ、とは恥ずかしくて言えない。
「ちなみに、星華さんの家はどうなの?」
そう聞いてみると、心なしか星華さんのまとう空気が固くなった気がした。
「...元気ですよ。今は二人とも忙しくてあまり家にいませんけど。」
その横顔を見て以前も似たような感じがあったことを思い出す。
その時も確か家族の話題で...
「もうすぐ駅ですね。それじゃあ、陽大君。また学校で。」
そんな彼女にこれ以上を聞くことはできず、そして駅について別れる。
「ああ。また学校で。」
姿が見えなくなるまで見送りながら一人考える。
考えすぎかもしれないが星華さんは家族と仲が悪いのか?
しかし、以前聞いたエピソードからはそのようなことを一切感じ取ることはなかった。
何なら愛されているという風にすら感じられた。
ただ、違和感はあった。
手術を成功させたはずの星華さんは高校入学時になぜ歌うことができなかったのか。
その謎に関係があるのか、それとも俺が知らないだけでまた別の事情があったとかかもしれないし...
まあ、深入りしていい問題ではなさそうではある。
変に野次馬精神を出さないように気を付けよう。