第五十九話
陽大君とテレビゲームだとかをしているとあっという間にご飯の時間になり、食卓に着く。
「「「「いただきます。」」」」
おいしそうで色とりどりのごはんが机の上に並べられている。
どれからいただこうか迷っているのを見て、声をかけられる。
「今日はたくさん食べてくれ。陽大が立ち直れたのも君のおかげだって聞いているし。」
「そうそう。私とかお兄とかに遠慮しなくていいから。」
「ありがとうございます。ただ、どれもおいしそうで...どれから取ろうかと...」
そう、本当に美しすぎて...崩せない...
とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかないので意を決して美しい盛り付けの一角を崩しておかずをよそう。
そして一口。
「おいしいです。」
「ははは。それはよかった。」
「父さんはこれでも元フランス料理店のシェフだからな。しかもミシュランに載った。」
「へえ。それはすごいですね!」
「昔の事さ。それに、今の生活の方が充実しているしね。」
少し意外な思いに耳を傾ける。
「長らく入院していて思ったんだよ。私にとって本当に大事なものは何だろうかってね。
それで、名レストランで働いて自分の店を持とうっていう夢を持っていた自分と家族と過ごす自分。
どちらの方が大事かって言われたら家族かなって思ってね。」
「夢よりも家族...」
「いつか君にもわかるときが来るさ。本当に愛する人ができた時、全ての価値観が変わる瞬間がね。」
*
夕飯を食べ終わりしばらく会話を楽しんでいるとすっかり遅くなってしまった。
「今日は本当にありがとうございました。」
「いえいえ、気にせず。また来てくれると嬉しいな。ほら、陽大。送っていきなさい。」
「分かってる。星華さん、駅まで送るよ。」
「...ありがとう。」