第五十八話
只今...私...永田星華...生涯で一番と言っても過言ではないほど...緊張しております...
時刻は夕方。
私が今いるのは...陽大君の家の前でございまして...
以前誘われた日程が今日になり...いざ家の前に来たわけですが...緊張してチャイムを押せません...
どうしましょう...
「あ、星華さん。」
そんなことを思って固まっていると、窓から外を見たのだろう、二階から陽大君に声をかけられた。
「ちょっと待っててね、ドア今開けるから。」
どたどたと言う音がするので階段を下りているのだろう。
あんなところを見られてめっちゃ恥ずかしい...
記憶を消せないだろうか...
*
「ようこそ、星華さん。」
玄関で靴を脱ぎ、陽大君の家にお邪魔する。
そのままリビングへ入ると、陽大君と同じ金色の髪をした男性と、同じく金髪で、その長い髪をポニーテールにした女の子がいた。
「こんにちは。君が星華さんと言うお嬢さんか。」
「こちらは俺の父さん。」
「ども、陽大がお世話になってます。」
丁寧に浅いお辞儀をされたので慌ててお辞儀し返す。
そして女の子―身長は私と同じくらい―が陽大に尋ねる。
「もしかしてお兄の彼女?」
「違う違う違う。」
慌てて首を振る彼に少し寂しい気持ちを抱えながらも挨拶する。
「こんにちは。永田星華といいます。」
「私は望月沙羅。今、中学三年生で、来年麗英高校に進学するつもりだからよろしくお願いします。」
最初の発言から大丈夫かと思ったけど、しっかりしているらしい。
それに麗英高校に進学するつもりとは...兄弟そろって優秀なのだろう。
「それじゃあ、夕飯までは好きにしていてくれ。僕はまだ支度があるから。」
と言って陽大君のお父さんはキッチンの方へ行った。
「じゃあ、あとは若い人たちだけで。」
沙羅さんも自室があるのであろう二階へ行ってしまった。
待て、その言葉は一体どこで覚えたのだろうか...