第五十七話
今日は二月十四日、バレンタインデーだ。
そう、多くの男子が想い人からチョコレートをもらえるかどうかでそわそわしているわけだが。
「なあ、陽ちゃん。下駄箱にチョコレートいくつは入ってた?」
「下駄箱に入らない数だったな。面倒で数えてない。」
「うわ。そんだけ全部食べられるのか?」
「正直無理だと思う。」
他愛のない会話をライとしていると、周囲の男子から半分尊敬、半分怨嗟の視線を向けられる。
一つも、義理チョコすらもらえない男子からしたら、この上なく妬ましいのだろう。それはわかる。
「とはいえ、俺が欲しいチョコは一つだけなんだけどなぁ。」
「陽ちゃん...そういうことは言っちゃだめだよ。」
ライにはもう、俺が好きな人がバレているので察したのだろう。
軽くたしなめてきた。
ただ、彼も同じことを思っているのだろう。否定はしなかった。
ちなみにライが好きなのは来夏さんだ。一目見た時からハートを撃ち抜かれていたそうだ。
「もらえると思うか?」
「さあ?下駄箱には入ってなかったんだろう?」
「ああ。」
「まあ、楽しみにしておこう。」
*
さて、放課後。教室で顔を合わせたものの、チョコレートはもらえなかった。
それどころか作ってもらえてない可能性も...
そんなことを思いながら自主トレをする。
最近は月末にあるライブに向けて絶賛練習中だ。
今回は俺と星華さんのダブルリードだから気を引き締めてしっかりしないと。
色々考えながら練習をしていると、あっという間に時間が過ぎ、気が付けば太陽が沈もうとしていた。
もうこんな時間か。部室に戻って挨拶して終わりかな。結局チョコはもらえなさそうだが...
音楽室へ向かおうと、自主トレで使っていた空き教室を出ると、そこに星華さんがいた。
「陽大君。あの、これ。よければ。」
「チョコ?」
「う、うん。たくさんもらってるだろうけど...」
「ありがとう。おいしくいただくね。」
「うん!」
星華さんからチョコをもらえてよかった。
夕日を浴びながらの星華さんの笑顔を見て胸をドキリとさせながらそう思った。