第五十六話
「どうも。夢里家でシェフをさせていただいております、折戸と言います。」
折戸さんは四、五十代と思われる、物腰が柔らかそうな男性だった。
「本日はバレンタイン向けのチョコレートスイーツ作りと言うことでよろしかったですね?」
「「「はい、よろしくお願いします。」」」
「それでは、早速作り始めましょうか。」
*
数十分後。
「混ぜ方は、もっと優しく。空気をつぶさないようさっくりと。」
「チョコレートはテンパリングをします。」
「粉はダマができてしまうのでふるってからです。」
折戸さんの細かい指導の下、各々お菓子作りを進めていく。
彼の指導は簡潔だが、明確で、非常にためになる。
おいしいスイーツのため、頑張ろうと思う。
*
そしてさらに一時間後。
「出来た!!」
私が作っていたボンボンショコラが完成。
自分で言うのもおこがましいが、綺麗にできた。
少し離れたところでは、このみと来夏が作り終えたようだ。
二人はガトーショコラを作っており、味見をしてうなずいている。
きっとよかったのだろう。
そして萌は...顔を青くして立っていた。
「スポンジケーキなのに...パンケーキみたいになっちゃった...」
彼女の前には、うまく膨らまなかったのだろう、ぺしゃんこの円盤状のケーキがあった。
「ま、まあ、これはこれで...」
「作り直しですね、お嬢様。」
「ヒエェェェェ...」