第五話
短いです。間話くらいに...
果たして彼は私の歌声に何を見たのか。
「それはね、前にも言った通り俺は君の、永田さんの歌声に惚れ込んだんだ。
永田さんの声は聞いた人の心を揺さぶる。心の根底でずっと願っている、あきらめかけていたことに希望をもたらすような。失いかけていた情熱に再び火を灯すような。そんな風に思わせてくれるんだ。」
望月君は心なしか頬を上気させながら熱く語る。
「俺には、そんな力がない。勉強とかスポーツとか、そういったものは頑張って得意にしてきた。でも、それじゃあ、それだけじゃ人の心を動かせないんだ。」
そんなことはないとか、私の声のどこがそんなすごいの?とか言おうと思ったが口をつぐむ。
「永田さんの声を俺は一番聞いていたいんだ!!!」
まるで告白されているようだ。されたことはないが。
本人も自分が言った内容に顔を赤くしている。
「と、とにかくそういうことだから。プレッシャーをかけるわけじゃないけど、よ、よろしく。」
「ちょっと待って。」
立ち去ろうとする望月君を呼び止める。
「そういう風に言ってもらったのは初めて。ありがとう。歌えるように頑張るから。」
そういうとさらに顔を赤くする望月君であった。
*
ありゃ惚れたな。
立ち去っていく望月君の姿を見て内心こそりと思う。
私は藤田来夏。星華の親友である。
かれこれ小学五年生から親友をやっていて星華に対してずっと思っていることがある。
”自己肯定感が低すぎる!!”
と。
おそらくこれは高校から星華と友人関係となったこのみも思っている。
彼女は私よりもずっと優れた容姿を持っている。
美しい黒髪をポニーテールで一つにまとめ、薄い水色の目が、その顔を見た者に強い印象を残す。
出るところも出ていて、スタイルもよく、見ているだけでため息が出そうなレベルなのである。
小学生のころから男女問わず人気で、彼らが告白しようとしているのを幾度となく見てきた。
高校に入ってからも、男子が告白するとかしないとかいう話をしているのが耳に入っていた。
まあ、結局互いにけん制しあってすべて失敗に終わっていたのだが。
そして今、また無自覚な星華による被害者がまた一人増えてしまうのか。
かわいそうに。南無南無。