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第三十六話

 分かっていた。



 ずっと、ずっと。



 手術を受けなければどのみち父の命は長くないって。



 でも、幼い子供の我が儘みたいかもしれないが、リスクの高い手術を受けてほしくなかった。



 死んでほしくない。



 まだ、俺を一人にしないでほしい。





「お兄?入るよ?」



 暗い陽大の部屋に妹である可憐な少女、沙羅(さら)が入る。



「ほんとにどうしちゃったの?この前の週末くらいからずっとこんな調子で。」


「…なんでもない。大丈夫だ。何も心配は...」


「私はお兄のことがすごく心配。こんな調子で...まあ、あと一時間で夕飯だから下に来てね?」


「分かった。」



 沙羅の表情は不安そうではあるが、あまりに落ち込んでいる兄を気遣ったか、すぐに部屋から去って行った。


 また一人物思いに沈む。



 もしも、もしも父を失ったらどうしようか。


 失いたくない。


 父が入院してからずっと叫び続ける心の声。


 とうとう抑えきれず、体を動かす気力もなくなってしまった。




 振り返ってみると、孤独を感じない日はなかった。


 いつだって、美しいものを見ようと、友人の冗談に笑った時も、心の奥底では孤独を感じていた。




「いや、...そういえば。」



 高校で出会った歌姫、星華さんといるときだけは孤独を感じなかったな。


 どこか、温かくて、心が落ち着くような。


 長い冬を乗り越えて浴びる春の陽光のような、そういう感覚。


 一緒に歌っている時には高揚感すら感じた。



 そのことに気づくと、途端に星華さんに会いたくなった。


 時計を見るとまだギリギリ部活をやっているであろう時間帯。


”学校に行くか”


「沙羅!ちょっと出かけてくるから!」


 そういって家を飛び出した。

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