第二十三話
それからは特筆するようなこともなく、順調に大会に向けて練習が進んでいった。かなり譜面が面白いことになり、審査員の方々の評価を楽しみである。
萌とも仲良くなり、夏休みに遊びに行こうという話が出るほどに打ち解けた。
そして迎えた大会当日。
「おはよう。」
「おはよ。」
会場に向かう途中の駅で陽大君にばったり会った。
「早いね。次の電車に乗っていったら集合の一時間前についちゃうよ?」
「私は迷いそうだから...まあ陽大君がいたら大丈夫だと思うけど。」
正直迷子になる予感しかなかったので合流出来てありがたかった。
「そういう陽大君も早いね?」
「俺はなんとなく不安になってさ。早めに会場に行こうと思って。」
「ふうん。」
彼ほど場慣れしてそうな人でも緊張するものなのだなぁと思ってしまう。
「今、意外に思ったでしょ。」
「う、うん。」
内心をあてられて驚く。
「俺はさ、才能なんてないから。
だから人より時間をかけて、一つ一つのことに真摯に向き合って、乗り越えていくしかないんだよ。これまでも、この先も。」
陽大君の顔は真剣だった。
目には強い力を宿している。
だからこそ彼はきっと多くの人から慕われるのだろう。
人より多く努力を重ねているから。
そう思うといつも見ている横顔がより力強く見えた。