第二十一話
「夢里さん!!」
校内オーディションから一日。昼休みに一人でいる夢里さんを見つけて声をかける。
「何用かしら?」
「少し話をしたいの。屋上に行かない?」
*
場所を屋上に移して話をする。
昨日、雨が降っていたためか、少しジメジメしている。
「本当に私たちと一緒にグループを組んでくれないの?」
そう聞くと夢里さんは少し苦しそうな顔をして、そして顔を伏せて言った。
「私にそんな資格はないわ。」
その声には、寂しさと後悔の念が混ざっているように聞こえた。
「私があなたに言ったこと、覚えてるかしら?私は自分に絶対的な自信を持っていた。
だから聞いたことないあなたの歌声を勝手にばかにして、望月君を私と組ませるように言った。
今から思うと私の方が本当に馬鹿よね。あんなにも才能にあふれた声の持ち主に喧嘩を売るなんて。」
井の中の蛙だわ。とつぶやく声が聞こえた。
「だから、私はあなたと組めない。失礼を働いた上に才能でも劣っているんだもの。」
そういって屋上から去ろうとする。
「待って!!」
少し慌てて夢里さんを引き留め、そしてそっと語り掛ける。
「ライブを聞いていて思ったの。夢里さんは自分と張り合えるような実力の持ち主と歌いたいんじゃないの?」
夢里さんが足を止めた。
「自分と同じくらい努力してて、才能があって、競い合えるような人と、歌いたいんでしょう?」
そう、ライブを聞いていて違和感を感じたのだ。下手なわけではない。むしろ平均的なラインは超えているのだが、すごみがないというか、とにかく何かが足りなかったのだ。
そして考えたのは、グループメンバーのレベルに合わせていたのではないのか、ということだ。ひとりだけ目立ってバランスが崩れないように調整をしていた可能性は高い。
「...確かにそうね。私は実力がある人と歌いたい。でもね、あなたの歌を聞いていて気づいたの。
あなたは、あなたの歌声は、歌い方は、リードボーカルを魅力的に聞こえさせるだけじゃなくてグループ全体のレベルを底上げしていたわ。技術的にまだ甘いバックでできた穴を埋めるだけの柔軟性を持っていた。
そのレベルまで私も達したいと思ったのよ。そのレベルになったらあなたと歌わせてもらおうかしら。」