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第十六話

 テストも無事終わり、特筆することもなくあっという間に私たちの初ライブがやってきた。



「うー緊張するね!」


「そんな緊張するんじゃない。深呼吸深呼吸。」


「そういう来夏も震えてるけどね!」


「ま、まあ。そんなことないし...」



 少し離れたところでこのみと来夏が話している。


 別の場所では



「僕、大丈夫かな...」


「大丈夫だ。そのためにたくさん練習してきたんだろう?」


「う、うん。」



 弱気な岸君を香坂君が励ますというレアな光景があったり。


 かくいう私も緊張でがっちがちだ。なにせ...



「まさか大トリの一つ前とはね。」



 歌う順番が決まったのは昨日の部活にて。スタートと大トリは二年生のグループに決まっていたがそれ以外はくじで決めるということで、全7組で順番を決めた。


 すると望月君はその7組で一番最後のくじを引いてしまったのだった。

 ちなみに夢里さんのグループは私たちの二組前だった。



「永田さん、緊張している?」



 考え事をしていると後ろからいきなり望月君に話しかけられてびくっとする。



「いや...うん。すごく緊張してる。初めてっていうのもそうだけど、最後から二番目だし。プレッシャーというか。」


「それに、もう入ってるお客さんの圧がね。」


「ほんとに...鳥肌が立ちそう。」



 麗英高校の音楽部はほどほどに歴史があり、過去に何度も受賞するなど定評があるため、コアなファンも多い。そのため、今日のコンサートも満員でないわけがなく熱狂的とまでは言わないが、ほどほどに熱い空気が漂っていた。



「と、とりあえず、じゅ、準備してくる。」


「あ、うん。」




 今日の会場である市民会館の裏手から外に出る。


 さあ発声練習をしようかというところで後ろから声をかけられた。



「緊張してるね。そんなに怖がらなくてもいいんだよ。」


「朱莉先輩...」


「お客さんはみんな優しいよ。」



 微笑を浮かべながら先輩は話を続ける。



「私の初めてのライブもここだったんだけど、私は本番で緊張のあまり声が出なくてね。」



 あの時は終わってから泣いたなぁ。と昔を振り返るような顔をする朱莉先輩は、つらい思い出のはずなのに、どこか楽しそうだ。



「終わったあと先輩に言われたんだ、ステージは恐れる場所じゃなくて楽しむ場所だって。緊張は確かにするけどそれすらも楽しんで、観客のみんなをどれだけ楽しますことができるか、自分を試す場だってね。」


「自分を試す場...」


「その次のライブで意識を変えて挑んだらもう声が出なくなることもなくなってね。むしろ、先輩の言う通り、とても楽しかった。だから、私は星華ちゃんにも楽しんでほしいな。」



 濁りのない透き通った先輩の瞳を見て少し落ち着く。


 そうだ。観客の視線なんて関係ない。夢里さんの仕掛けてきた勝負も知らない。ただ、ただ私は自分の歌を披露することに専念しよう。



 そう思うと緊張はすべてではないが、少しは吹き飛んだような気がした。

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