第一話
初執筆です。多少のミス等に優しく反応していただけると...
ここは日本のとある場所にある、私立麗英高校。最新の設備が整い、最高の学習環境が用意されたいわゆる名門高校である。
そんな上流階級の人間も数多く通う華々しい校舎の上空では風に吹かれて桜の花びらが舞っていた。
一方その下では ―入学式を終えた新入生が高校に入って次に経験することは何か。答えはそう、熱烈な部活動勧誘、新勧である。― 上級生による新入生の醜い取り合いが起きていた。
例えば、少し美形の男子が廊下を歩いているだけで
「そこの君、もしよければサッカー部に来ないか?」
「何言ってるんだ、君はラグビー部に来るべき人材だ。」
「はあ?この子は私たち演劇部があずかるわ。」
という本人の意思をガン無視した口論が発生するのだ。
このような口論をしているのはほんの一部ではあるものの、上級生は新入生を求めて必死に部活動の宣伝をしているのだった。
さて、そんな麗英高校の部活動をパンフレットを片手に見学している三人組がいた。
*
「見て見て、音楽部だって。」
親友の甘崎このみが廊下に貼られたポスターを見て言った。このみは同じクラスで、席が隣同士であったことがきっかけで仲良くなった。
「ふうん。面白そうだね。見てみたいな。」
このみに反応したのは、こちらも親友である藤田来夏である。来夏とは小学五年生からの付き合いになる。
「音楽部...アカペラか。」
「星華は昔、音楽―歌うのが好きだったよな。最近はめっきりだけど。」
「そうだったの!?今は歌わないの?」
来夏の話にこのみが反応する。
「…今は...歌えない。」
私の雰囲気に何かを感じ取ったのか、二人とも静かになってしまった。
「ごめんごめん。今は歌えないけど、音楽部は面白そうだし覗いてみる?」
「そうしようか。」
「うん!!」
*
音楽部が活動している教室の扉を開ける。それと同時に新勧の一環だろう、流行りの曲を六人で歌う声が聞こえてきた。
人だかりができており、その輪から少し離れたところで歌声を聞く。
伴奏を奏でる声、ボイパ(ボイスパーカッション)で全体のリズムを一人でコントロールする声、低音で曲に厚みを持たせる声など、様々な声が混ざり合って教室の中に響く。
そして五人の真ん中に立つ、薄い紅の髪をハーフアップにした女子生徒の、消えそうではかない、けれど強い歌声が、混ざり合った声に乗って響く。
美しい旋律に思わず涙が出そうになる。
野原に凛と咲く一輪花のような華麗さと、荒波にあらがう魚のような強さに圧倒されて胸がいっぱいになる。
―これが永田星華と音楽の"再会"だった―
*
「音楽部に入りたい?」
「はい!!」
先ほどのライブが終わり、このみが五人組の中心で歌っていた女子生徒 ―名を天童朱莉というそうだ― に質問をしている。
「それじゃあ...そうだな、どのパートをやりたいとかは決まってる?」
「パート?」
「うん。アカペラには基本的に六つのパートがあるんだよ。」
主旋律を担当するリード。ハーモニーを奏でるソプラノ、アルト、テノール。音楽の土台を作るベース。そしてボイパといったパートがあるそうだ。
「ふむふむ、私の声質的にはアルトが適していそうだね。」
「私はソプラノかな!リードは緊張してうまくできなさそうだし...」
二人はもう入りたいパートを決めたようだ。
「君は?」
「私は...私は、歌えないので歌い手のみんなの助けになるようなことがしたいです。」
「歌い手の助け。要はマネージャーになりたいと。」
「は、はい。」
そう答えると女子生徒、朱莉先輩は私の目をじっとのぞき込んできた。
「私は君に歌の才能を感じるけどな。」
しばらく目を合わせる。先輩の深い紅の目は真剣で私の真意を探るような。
「なんて何をするかを決めるのは本人か。ごめんな、変なこと言って。」
「い、いえ。」
*
学校が終わり帰り道、来夏と一緒に電車に乗り込む。
このみは車で送迎だ。彼女は一見普通の女の子に見えるが実は結構な規模の商事の令嬢だったりする。
「部活動は決めた?」
「ああ、私は音楽部にしようと思う。あそこでなら私が、私らしく輝ける気がする。」
「私...らしく...」
「そういう星華はどうなんだ?」
「私も音楽部にしようかな。歌うことはできないけど、みんなを精一杯支えるよ。」
「ふうん。」
来夏はどこか納得がいかない顔で黙り込む。
「どうしたの?」
「いや...」
「何か気になることでもあった?」
するといいにくそうに口を開いて、
「星華は昔は歌を嫌いどころか愛してそうだったのにどうして歌えないんだ?」
と尋ねた。
確かに私が来夏と出会ったころ、よく一緒にカラオケに行って遊んだ。バンドの真似事もした。
しかしそれは昔の話だ。
「愛してるって...まあ、ただなんというか...うん、私歌うの下手だから。聞くのは好きだけど歌えないから。だからマネージャーが適任なんだよ。」
「いや、昔カラオケ行ったときに星華の歌は聞いてるから、うまいの知ってるんだよ。」
「...」
黙っていると来夏はため息をついて、
「しょうがない。星華が言いたがらないなら無理して聞かないけどさ。けど、私は星華の友人だから、いつか話してくれよ。」
「分かった。」
更新は不定期です。テスト等の兼ね合いでかなり間が空くかもです。そこらへんよろしくでありんす。