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ザンキ  作者: 企鵝 囃子
3/3

半覚醒

 覚悟した瞬間、体に熱を感じた。まるで内側から燃え上がるような感覚が全身を駆け巡り、痛みが一瞬だけ霞んでいった。まるで自分の中に眠っていた力が目覚め、活性化したような感覚だ。


 視界が鮮明に戻り、全身の痛みが少し和らいでいくのを感じながら、俺は拳を握りしめた。周囲の光景も、これまでよりもはっきりと見える。自分の力が、これまでとは違う形で働いていることに気づいた。


 俺の異変を感じ取ったのか、怪物が再び俺に向かって突進してきた。その巨大な体が迫る中、俺は深呼吸をして冷静さを保った。そして、手を手刀の形にして、怪物を切るように腕を振り切った。


 なぜそうしたのかは分からない。無意識に湧き上がった本能的な一撃だった。過ぎ去った怪物の巨体は、腰から上が徐々に斜めに崩れ落ち、大きな音を立てた。


(俺は何をした……?)

 

 俺は振り下ろした右手を見つめると、そこにはいつも見慣れている自分の右手ではなく、鋭い刃の形をした大きな刀身が月夜の光に当たり鈍く光っていた。


 混乱する頭を押し殺して戦闘中であることを思い出し、俺は怪物のほうを見ると、黒い煙を上げながら消えていく怪物の姿があった。


「倒した……のか?」


 黒い煙が立ち昇り消えていくと、そこには怪物のものであろう赤黒い血だまりだけが残っていた。先ほどの喧騒はどこへやら、町はずれの静かな時間に戻っていた。そして、その場に残されたのは、右手が異形の姿になった自分と、バラバラにされた死体だけだった。


「……とりあえずここを離れないと。」


 この場には、右手が異形の姿で、返り血を浴びた自分と足元にはバラバラにされた死体が散らばっている。もし第三者が見たら、今度は俺がやったと考えるだろう。右手の戻し方は分からないが、まずはここを離れることが先決だ。しかし、俺が動こうとすると、心臓が大きく跳ね上がるような感覚に襲われる。そして、先ほどのように内側から燃え上がるような感覚が今度は全身を包み込むように俺を襲った。


 俺も先ほどのような怪物になるのではないかという不安と恐怖を感じて抵抗しようとするが、体が言うことを聞かず、焦りを覚える。突発的な事象に困惑しながらどうすればよいか考えている間に、ソレはどんどんと俺を浸食していく。


「ぐあああああアアアアアアアアっ!」


 遂にその感覚は頭の方まで達してきた。顔の視界が暗く染まり、駄目かと思ったところ、背中に何かの衝撃を感じた。


「気配が2つすると思えば……半覚醒の状態でアッキを倒すとはな、先祖返りというやつか。」


 意識が朦朧とする中で、男の声がどこからともなく聞こえてきた。耳に響くその言葉は、ぼんやりとした夢の中での囁きのように感じられた。周囲の音や感覚は遠く、意識が遠のいていくのを感じる。その後も、何か言葉が交わされているが、その内容はぼやけていて、理解することができなかった。


「――――了解、今後はこの個体を「ザンキ」と呼称する。しばらくは監視任務を続ける。」


 その声もまた、夢の中で聞くような響きがあり、現実との境界が曖昧になっていた。意識は深い闇の中に閉じ込められたまま、焦点が合わず、体の感覚も薄れていく。


 そのまま、意識を取り戻すことができず、深い沈黙に包まれた。

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