第9話「ベースの意義」
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「『ロックバンドで一番支えになる楽器』……?」
「そう。」
説明をアリスは続ける。
「ギター2本とドラム。別にこれだけでも最悪ロックバンドができないわけではない。」
「だけど曲としての完成度はとても低いんだよ。」
「さっきの音でわかると思うけど、曲の全てを支えてくれるんだ。」
「それにね、ベースってかっこいいんだよ。」
「私がよく聞くのは……やっぱり『地味』って言葉です。」
説明の合間に千景が言葉を挟む。
ベースの肩身の狭さ、というのはあるあるでバンド系の楽器を始めようとした際、最初からベースが好きでやりたい!というは事実上かなり希少種であったりする。
特にロックを聞かない人たちからするとベースの存在意義がわからないというのはあるあるだからだ。
「やっぱり地味なのはな…‥っていう思いはあります。」
「ならだけど、千景はなんで委員長になろうと思ったの?」
「えっ?」
思わずそんな言葉が出てしまう。
「確かに委員長はクラスのリーダーって感じだけど、それと同じようにクラスを支えてると思うんだ。」
「だってそうでしょ?みんなの意見を取りまとめたりとか、クラスの意見を決めるとかリーダーなのはもちろんだけど支えるって意義がないとできないよ。」
「……っ!!」
思わない方向にベースとクラスの委員長という繋がりができたが、元を辿ると「支える」ということ。
真面目そうな彼女ならもしかしたら過去にも何かを支えること……。そこに準じた役職をやってきただろう、とアリスは予想している。
全てを含めてベースに繋げたのだ。
その証拠に何かに気づいた、ハッとした表情を浮かべているのだ。
話してよかったとアリスは内心思っている。
「そんなわけでベースも同じ。みんなをまとめて支える。それがベースの役割であり、意義さ!」
「……カッコいいです!」
ついに顔が晴れた。勢いに押されたままだったが、顔が晴れて明るい表情になった。
紗奈と美步はそこを見逃さなかった。
「ねえ、やってみない?ベース。」
その問いに少し間を置いてから答える。
「音楽には、興味あったんです。実は。」
「でも自分じゃあ高望みしすぎてるんだろうな、って思うことが多くて手を出さなかったんです。」
「…‥私でいいんでしょうか。」
そんなことをこぼしたのを見た美步は口に出した。
「私もそうだったよ。私がギターなんて、って。」
「でも今はなくてはならない存在になった。大丈夫。貴女もそうなるよ!」
先輩の言葉に千景は強く背中を押される。
確かにきっかけは自分のくだらないことからだ。
今でも楽器を始めようとしている自分に戸惑っている。
だけど縁だと思えばそうだし、何もない、なんとか誰もやりたがらないようなことをやり続けることでなんとか存在価値を出してきた自分に、新しい「価値」が見つかりそう。
ただそれだけが嬉しい。
それがとてもたまらない。
自分から進んで手に入れた新しい「モノ」というのは一度つかめば離さない、離したくない。
間を置いた千景は少し恥ずかしそうにしながらも、でも決意のある言葉を放った。
「これから…‥よろしくお願いします!」
「初心者ですが頑張ります!!」
千景の言葉を聞くと、三人は千景に近づきハイタッチをする。
そしてそこに美步が4人の首に腕を回すと肩を組む。
美步にとって望んでいた環境がついに手に入ったのだ。
あの時誰にも理解してくれなかった言葉と行動がついに実を結んだ。
バンド活動がスタートできる。ただそれだけが嬉しくて仕方ない。
そこには今まで見せたことのないような、眩しくて爽やかな笑顔があった。
「やっとバンド組める!!」
「本当に嬉しいよ!!」