第8話「ようこそ軽音部へ!」
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「気になって……?」
「いやその……!!」
不思議な問いに反射的に返すと、委員長はギターをそっと置くとすぐに頭を下げる。
ボブの髪が、珍しく躍動的に動いた。
「ごめんなさい!本当に気になってたのは事実なんです……。」
突然頭を下げられたらアリスにとっても突然すぎて困ってしまう。
どうすればいいかわからなかったアリスはただひたすら「そんなことしないで」と言わんばかりの手を振る。
「びっくりしたのは事実だけど……壊されてなかったら本当に大丈夫だから!!」
「本当ですか……?」
現にアリスが持ってきたギターは家でも使う練習用のギター。本名の相棒は家で弾くかライブで弾くかの時にしか使わず、なるべく壊したくないので家に置いてあるのだ。
「ところでギター興味持ってくれたって言ってくれてるけど……邦ロックとか、軽音部に興味持ってくれたのかな?」
一度頭を上げた委員長は恥ずかしながらにもこくりと頷く。
その言葉を聞いたアリスは途端に口角が上がり、彼女の手を握った。
「ならちょうどさ、ベース今探してるの!ギターよりも簡単だしやってみない?」
怒涛の勢いに押され気味な委員長は、その勢いに勝てず、こちらもまた反射的にこくりと頷いた。
漫画で言うなら目がバッテンになってる状態と言っていいだろう。
「ところで名前は……?」
委員長、というイメージしかなく名前をど忘れしたアリス。聞いてみるとか細い声が彼女の耳に入ってくる。
「三河千景ですぅ……。」
「てなわけでベース連れてきた!!」
「展開はえーよっ!!」
早速手を引いて軽音部へと連れてきたアリスに紗奈は大声で激しくツッコむ。
隣でニコニコと微笑む美步、何が起こっているのかわからずおどおどしている千景と入り口前はカオスになっている。
「てなわけで改めて。ここが勢北高校軽音部だよ!!」
「ここが……。」
入り口から一歩入り、周りを見渡す。
メガネ越しでも伝わるキラキラとした目は3人もよくわかる。
まるでそれは憧れ、と言うよりも「未知の場所に来た感動」を味わっているように見える。
宝石のようにキラキラした目つき、口を開けた表情もすべて「感動」から来るものなのだから。
「改めてよろしく!同じクラスのアリスだよ!」
「ドラムの紗奈だ。上のクラスにいる。」
「2年生の美步だよ〜。」
自己紹介を先に済ませるも、やはりまだ戸惑っているようだ。
「まだ入るって決めていない……。」
「えっ、そうなのか?」
紗奈は横目にアリスをジト目で見る。
「いやいやいや……。と言うかむしろ入ってもらわなくちゃ困るんだけど。」
「は?強制してやるなよ。」
なんとも気まずい空気になりつつあるそれに、千景はなんとか触れられないように祈っていた。
だがアリスは話した。その全貌を……。
「……まあなんだ、それはまあ、入るしかないよな……。」
「癖強いね〜。」
引き気味に笑いながらも、なんとか納得しようとする紗奈と抱腹絶倒しながら笑い倒す美步。
千景はただただ気まずくなってしまい、下を向いていた。
「てなわけで、君のパートはこれ!」
そんなわけで混乱に乗じ、部室用のベースを手渡す。
初めて渡された楽器に勢いのまま握る。
「これは……?ベース?言ってた4本のやつ?」
「そうそう!ちょうどベースが足りなくて……是非やってほしいの!」
アリスの陽のオーラに押されつつある千景。しかし握ったベース。重くてずっしりある。片手で思うように持てないかもしれない。
「ほら、ここに荷物置いて椅子に座って!」
また勢いに押されベースを弾く体勢になる。
勢いで全てが進んでいるが、アンプに繋がれたベースを教えられた通りにコードを押さえ弾いてみる。
ボーン……と低い音が響いた。
3人はその音に口角が上がる。待ち望んでいた音が鳴ったのだと。期待と嬉しさが増しているのだ。
ただ千景の表情はあまり変わっていない。
「ねえ……ベースって何が役目なの?」
その問いにアリスは再び答えた。
「ロックバンドで一番支えになる楽器だよ。」




