第6話「バンドの路線とベースの行方」
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あれから数日が経った。
ギターは普通に弾いているのに対し、紗奈のドラムテクニックに2人は何度も驚きの声を上げる。
その姿や叩く所作はとても上手く、ドラムロールはもちろんのことダブルストロークはとても均一で速い。
スネア連打も速くて正確。音粒も非常に綺麗に揃っており、バンドを組む上ではとてつもない力になるのとをギターの2人は瞬時に理解した。
何より叩いている時の紗奈の笑顔がとても眩しい。
あの日まで暗い顔していた紗奈の表情は無くなり、2ビートを踏んだり早い裏打ち等を踏んだり叩く紗奈はとても楽しそうなのだ。まるで今までの鬱憤を晴らすかなような叩き方。
それを見てギターの2人は嬉しく思うのだ。
またアリスが披露した曲「STAY EVER HERE」の編曲……特にドラムパートの作成、リードギターの部分のコード部分の編集など様々にいかにも「軽音部」っぽいことが始まっていた。
放課後、好きなようにギターを弾きまたドラムを叩くという光景は4月が終わり5月へと突入しても変わらない。
ただ、ベースが見つからない。
そのことを3人は悩んでいた。
「最悪私ベーボ(ベースボーカルの略)するよ?」
アリスは椅子に座りギターを弾きながら美步と紗奈に話す。
「いきなりスリーピースはしんどくないか?」
紗奈もハイハットを時折止めては叩くを繰り返す。
「そうだね。やっぱり4ピースでやりたいよねえ。」
「でもパンクはスリーピースが主流だし……。」
「メロコアも聞くんだろアリス?」
「もちろん!」
「ならメロコアとパンクを併用したオルタナティブでこうぜ。」
「それも……そうだね。」
他愛もない会話が続く。そんな時間もアリスにとってはとても愛おしい。
「アタシさ、音楽の言葉で一個昔読んでた雑誌で衝撃受けた言葉があるんだよ。」
突然の言葉にアリスはギターを止める。
「えっ、何何?」
すると紗奈は少し間を置いてから紗奈は口を開いた。
「『パンクロックに花束を』って言葉さ。」
「この言葉の意味、理解できるか?」
「んー……。直感は『パンクに感謝』みたいな言葉かと思ったけど……。」
「違うんすよ美步さん。」
「パンクロックはもう廃れた文化、って事だ。」
紗奈の言葉を聞いた時、アリスは反射的に「なにそれ。」と答える。
「『パンクロックはもうかなり廃れてきている。過去の栄光にしがりつくしかなくなったその姿勢、堂々と退場するべきである。現在求められるのはパンクロックではなくポップスである』……って記事に書いてあったんだ。」
「まあなんというか……上手いこと言ったなとは思ったよ。」
「クソムカついたけど。」
ムカついた。その言葉にアリスもこくりと頷き、美步は冷静に何もアクションを起こさず聞いている。
「ほんとだよ!!確かにパンクは大衆向けではないにしろ……、そこまでこき下ろさなくてもいいやん!!」
「で、これを踏まえた上でアタシらのバンドはどうしてく?」
紗奈の問いに美步がようやく口を開く。
「いい意味で『パンクロックに花束を!』を目指す、でいいんじゃない?」
たった一年違うだけでブーブー言うというのはよくある話。ただ一年違うだけでここまで達観した考えに至るという、その先輩というか人生の先を行く人に思わず脱帽しそうになる。
アリスと紗奈、2人がこくりと頷くと話は戻る。
「で、ベースどうする?」
「うーん……。」
「ポスター貼ってみるとかは?声かけも続けながらって感じで!」
「そうですね!!」
美步がそういうと、早速と言わんばかりにポスターを作成していく。
……あまりにも絵心の無さにアリスと紗奈は苦笑いを浮かべるしかなかった。
翌日、早速生徒会等々から許可を得てポスターを貼ることに。
絵心の無さは無理も承知だが、誰かしら来てくれると助かるのだ。
特にベースというのは音楽やっていない人からすると「何やってるんだろう」「あれいるの?」と言われがちなポジションでハッキリ言ってしまえばベースが目立つことは少ない。
しかしその曲の下地を作る、曲の速さやペースを作るという意味ではとても大切なポジションだ。
クラスでアリスはそんなことを蜂屋を含めた他の友人たちと話していた。
「いいよはっちん、バレーと兼部してくれても。」
「そんな時間ねえよ。」
「知ってる上で言ったんよ。」
「こいつ……。」
「でもさ、ベースは本当に初心者でいいの?」
蜂屋の次に話しかけてきたのは吉留。アリスは普段からこの2人と過ごすことが多い。
「いいのいいの。ベースはギターと違って4本しか弦がないのと、コードそのものを演奏するのは稀なんだよ。」
「だからギターと違って覚えが早い、ってやつ。」
「私でもできる?」
「おっ?やる?」
「いや私は陸上部だから。」
ポニーテールの結び目部分をほどきもう一度髪を結ぶ吉留。
その所作からなんとなく陸上部、というのがわかるか。
また机の横にはシューズ袋が横かけてある。それも一因だろう。
一瞬期待したアリスはぺたっとまた机に項垂れる。
「ベースがいれば!!!!バンドできるのに!!!!」
心に思っていた声を発する。そんな事をしてるアリスに2人は背中をポンポンと同情する意味で優しく叩く。
「まあ勧誘は頑張れ。紗奈が叩けるようになっただけでもあんたの功績はでかいんだから。」
「ほんとだよ……。」
「そこは自惚れるんかいっ。」
蜂屋に頭へのチョップを喰らわせられた。
それを「ってぇ……!!」と悶絶する。
その光景も含めて、紗奈はふふっと微笑んだ。
「ほら、次授業だからさ!!」
そう言って吉留は自分の机に戻っていった。
実際のところベースの有無は生命線だ。
もちろんベースないバンドというのも存在しない訳ではないがそれはとてつもない実力が持っている者しか組んでいるというのが正しい。
そのため一般の人が2ピースや3ピースベースなしというのはあまりにも無謀。
国語の授業を受けながらも、筆箱や教科書で段差を作りノートを、先生から見える前面隠しながら歌詞を作り、頭の中ではメロディーを考えている。
授業なんて上の空、つまらなそうに窓の外をぼけっと、眺めていた。