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第3話「探しましょうドラマーを(1)」

今回も後書きにて用語解説しています

是非とも最後までご覧いただき、ブックマーク、評価の程お願いします

ギターを介した自己紹介から数週間が経った。

彼女たちの見解としては「初心者でも全然構わない」ということになった。

ドラムとベースがいなければバンドが成り立たないから。


アリスはクラス内の友達に掛け合ってみているが、中々難航している。












「ドラム……難しいんだよね?」

「最初のうちはね。」


昼休み、机をくっつけ合い3人で弁当を食べながら談笑しつつアリスは友達にドラムを割らないかと誘ってみる。


「部活もう決めたんだよね?」

「そうなんだけど……部活紹介とかまだやってないし、正式入部が5月からなの。」

「私はこのままバレー部かな。入学する前から練習参加してるし。」

アリスの友達の一人、蜂屋がそう言って頭の後ろに腕を組む。


「はっちんはバレーいつからやってるの?」

「中学からだね〜。アリスがギターやってるのと同じだよ。」

「だよね〜……。」

身体を丸めて顔を机に打っつぷしている。

初心者でも良いと言ったが、そもそも「音楽」を「聴く」のは好きだが「やる」のは違う。というのは多い。




音楽は幅広い。そしてどの楽器も必ず最初は慣れないところから始まる。

スポーツと違うのはそこに身体は勿論、脳や感覚が追いつかず、「成長した!」と感じるのが、数ヶ月……数年かかる人だっている。

そこに挫折を感じ手放す、なんてよくある話。


ギターであればFコードが弾くことができずにやめる、なんて辞める理由の定番だ。




アリスはそんな友達をたくさん見てきた。

だから不安なのだ。初心者を誘うにしても挫折した時にどうすれば良いかわからないから。

辞める人の決意というのを変えるのはとても難しい。


すると蜂屋はショートヘアの前髪の毛先を人差し指でくるくると回しながらアリスにこう声をかける。


「ここの高校で私の友達にドラムやってるやついるよ。」

「……マジで!?」

すぐさまアリスはその子の動画を見せてもらう。




動画の舞台はおそらくライブだろう。

大人の中に混じって一際目立つ女性ドラマー。

ハイハットでカウントを取って曲が始まる。









スマホ越しであろうとも、スネアを叩く音の衝撃がアリスの頭を殴る。











バスドラムを叩くツインペダルの音粒が均等に揃っていて、乱れがない。

そして2ビートというとても速い曲調も乱れなく、激しく叩くその姿にアリスは動画越しではあるものの見惚れてしまう。

それはスネアの音も変わらない。とても音粒が綺麗で、それでいて激しく聴いていて気持ちがいい。



ライブハウスのフロアに地震が起きているようだ。動画も揺れている。ただその揺れ方はとても均等に揃っている。激しさが観客の心を沸かせ更にそのビートに乗る。


四つ打ちもハイハットの乱れがなく、正確に叩けている。


そして何よりも本人がとても楽しそうなのだ。

彼女が恐らく好きなジャンルの曲、アリスも好きなジャンルの曲のコピーだと言うのもあるのか、額にかかる汗やパンパンに張っている腕の筋肉も、その大変さも疲労も全て覆すかのような眩しい笑顔が、アリスを引き込む。



感銘を受けたアリスはすぐさま机に手をついて立ち上がってこう言った。

「今すぐに会いに行こう!!」













「ほら、あそこに。」

2階へと登り、別クラスへやってくる。

蜂屋に案内されて教室の扉越しに覗いてみると、一際……いや、アリスより大きいだろうか。


ロングの髪が背中まで伸びていて、髪の毛の真ん中あたりからグラデーションがかっていて青色になっている。

周りに友達もいるようで、入学式が終わってから数週間以上経っただけなのに、周りに友達がいるということはコミュニケーション能力が高いのだろう。

どこか大人びていて姉御肌、という雰囲気が遠目からではあるが感じ取れる。




「あの子が二谷紗奈(ふたやさな)。アタシと同じバレーをやってたの。」

「私より上手くてさ。」

彼女を語っている時、目を細めて柔らかそうな表情をする蜂屋を横目にアリスは微笑む。


「えっでもじゃあなんで彼女を……?バレー続けるんじゃ……?」


そう、突然彼女を紹介したには何か理由があるのかもしれない。

そこに勘づいたアリスはすぐに蜂屋に聞いてみることに。

すると蜂屋の表情が少し暗くなる。


「怪我したんだよ。大きめの。」

「……えっ?」









蜂屋の説明はこうだった。

相手のスパイクをブロックし、成功はしたものの着地した際に前十字靭帯を断裂。更にその患側が右膝関節ということもあり、かなり苦しい思いをしたそうだ。



なんとか競技には復帰したものの、イップス気味になってしまいジャンプができなくなってしまった。

ドラムの方もバスドラムのペダルを踏み、音を鳴らした時の振動が今でも痛みを発することがあるそうだ。

基本バスドラムのペダルを踏むのは右脚。ツインペダルの場合は左足と合わせて踏むが、左足で踏むとなると「裏打ち」と呼ばれる叩き方をする際、ハイハットのペダルが踏めずそもそも不自然となり叩き方として成立しない。




そういうわけで趣味のドラムにバレーができなくてかなりやさぐれていた時期があったようだ。

ただドラム経験者なのであれば、どうしてもそこは譲れない。

アリスの思いとしても譲れないのだそうでなんとか蜂屋に掛け合う。


「怪我が原因でそのまま引退しちゃったんだけど今でも未練はたらたら、って感じ。」

「未練はあり、か……。」

その言葉にアリスは少し考える。

「今からは誘ってみるってまずいかな。」

「ドラム自体が嫌い!って訳ではないの。ドラムができない自分が嫌って感じで。」

「なるほど……。」


それを聞いたアリスは教室の扉を開く。

昼休みということもあり教室は賑わっていて、突然の扉の音に最初はみんなアリスの方を向いたが、すぐに友人たちの方へ目線を向けた。


ただ紗奈は違った。

アリスの後ろに蜂屋がついてきていることを見逃さなかった。

しかしその視線は睨みつけるといった負の感情ではないことは確かである。




「どうしたのハッチ?」

紗奈のその問いは特段不思議なものではない。

「この子があんたに用があるって言って。」

蜂屋はアリスを親指で指す。

「こんにちは……。アリス・グティレスです。」

二谷紗奈(ふたやさな)だよ。よろしく。」

そう言って2人は握手を交わした。

「それで用って?」


紗奈の質問にアリスは少し緊張を交えながらも相手の目をしっかり見て自分の要求を伝える。







「私の組むバンドのドラムになって欲しい。」

「いきなりだねぇっ!!」








アリスの質問に紗奈は大声で笑いながら答える。

「てことはハッチはアタシの経歴喋った?」

「とりあえずはね。」

「なら尚更話が早い。」

席を立つと、166、7cm付近あたりの身長がアリスを少し見下ろす形となって正面に立つ。


「アタシは怪我したの。そっからバレーと同じくらい好きなドラムが踏めなくて嫌なの。」

「やりたいのは山々。だけど、踏めない。」

「踏めない自分が嫌なんだ。やれない自分が嫌なんだよ。」


淡々と作り笑いを、しかしその笑顔はどこか苦しい。


「だからごめん。できない。」

「……そう。」


「でも。」

紗奈の言葉にアリスは頷くしかなかった。ただもし彼女のドラムの生の演奏をどこかで見れれば……。

アリスは見逃さなかった。

紗奈の苦しそうな笑顔を。





「ドラムを叩いててあんなに楽しそうな貴女を見てしまったら、私は易々と『はいそうですか』で引き下がりたくない。」







つい二谷の腕をパシッと掴んでしまう。

その出来事に紗奈は簡単に振り解くことができなかった。

ドラムがやれならとっくにやろうとチャレンジする。

だけどそれは膝が許さない。


そのもどかしさからくる怒りの気持ちというのは、残念ながらアリスには理解できない。


察した紗奈は2秒ほど置いたのちに腕を振り払う。

諦めたはずだったその「気持ち」がまたぶり返す。許したくなかったことが沸々と湧き上がる。


振り払った時の表情は悲しさ、悔しさ、怒りが入り混じったカオスのような、寂しくて哀しい表情がアリスの眼を突き刺す。







「なら見せてよ。貴女がアタシを引き摺り出すほどの実力があるのかを。」







挑発的とも捉えられるその言葉にアリスはこくりと素直に頷く。

「でなかったら、わざわざ貴女の所まで来て『やってくれ』なんて言わないよ。」


それだけを言い残しアリスは足早に教室を出て行った。

蜂屋はなんとかアリスを追いかけようとするも紗奈が引き止める。




「……どうしたの?」

「いや。どうして初心者の子にドラムさせないんだろうって思って。」

「アタシのボロボロの脚なんかでは……満足に踏めないというのに。」


自分の右膝をさすりながら悲しそうな物言いをする紗奈に、蜂屋はズバッと言う。


「私も見たいのよ。アンタがまた楽しそうにやってるドラム。」

「魂を震わせて、すべてのストレスをドラムにぶつけて、楽しそうに叩く紗奈が私は見たい。」


「でもアタシはバレーがやりたい。」

「ドラムも同じくらい大事だけど……。」



少し反論した紗奈に蜂屋は真面目なトーンで口を開く。




「中学生の引退したあの頃から、あんたはバレーに縋りすぎ。」

「なにをっ!?」

「バレーが大事なのはわかるけれど、もうその脚で確実にできるって確信はあるの?」

「それは……。」

「よく考えてあげて。貴女にはドラムっていう好きなものがあるんだから。」





教室を出ていく蜂屋を紗奈は目で追っていた。

自分の中ではバレーも、ドラムも諦めたつもりでいた。


ただ蜂屋は自分の可能性に信じてくれて、初めて見た子は蜂屋からの伝言とは言え自分に期待してくれて。

その事実だけでも紗奈はお腹がいっぱいになりそうだった。


でもバレーが一番だと考えている紗奈にとって怪我で結果的に引退してからも縋りついているバレーにどうしても諦めがつかない。


そうしないと自分に「居場所」がないようにすら思えるから。





「……ひとまずバレー部の見学に行こうかな。」


そんなことを呟き、昼休みが終わるチャイムの音を聞く。

ハイハット……ドラムを前方から見て右にあるシンバルのようなもの。基本これを叩いてリズムを刻む。


バスドラム……ドラムを前方から見て一番大きなドラム。フットペダルと呼ばれるものを踏んで叩く


ツインペダル……通常フットペダルは一つだが、それを連結させて両脚で叩くもの。非常に早くさらに迫力を増すことができる。ラウドロックやデスボイスを出す曲、ヴィジュアル系でよく多用される。


スネアドラム……ドラムを前方から見て右奥にあるもの。左手で基本叩くのと連打したりと一番よく多用するドラムである。


2ビート……非常に速いもので4分音符か2分音符を基本とする。


四つ打ち……裏打ちとも呼ばれる。表拍(タンタンタン)ではなく裏拍(ッタッタッタ)として叩く。バスドラムをずっと叩き、バスドラの後にハイハットを叩く、というような感じ

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