第11話「初ライブにむけて」
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6月も中頃に入り期末試験のテスト週間に入る。
部活動も一時中断……かと思いきや、実は軽音部にはとある重大任務が課せられている。
それは「校内ライブ」だ。
テスト期間の1週間が終わればあとは短縮日程ということで生徒の帰宅時間も通常よりも早くなり、生徒たちにとっては嬉しい期間だ。
そういうわけで夏の訪れを感じさせるため、またテストのストレスを思う存分発散させるために生徒会の粋な計らいで開催することになったのだ。
……粋な計らいと言ったが、厳密には美步が先生や生徒会と何度も何度も交渉を重ね、今回に至る。
このタイミングでライブをしたいこと、10月ごろに行われる文化祭では遅いということ、全員に非日常感を味わってほしいなどなど……。
何度も協議を重ねた結果、開催することにありつけることができた。
更には「生徒会企画」と銘打って開催させるため、授業の枠……学校のイベントとして開催することが決定。
一つの文化部にここまでの手厚いサポートがあると思わず、美步は感動して涙したという。
勢北高校軽音部としてついに新たな歴史の一歩にアリスたちは挑んでいく。
「そこちょっと走ってない?」
「なわけ。アリスのボーカルの方が走ってると思うぜ?」
「美步さん……。ちょっとチューニングズレてませんか?」
「ドラムちょっと早いなあ!」
そんなことを意見交換している。バンド練習というのは失敗の繰り返しだ。
いきなりビタっ!と合わせられるのはほんの一握り。微かなズレが曲が進んでいくごとに大きなズレとなっていく。
絶対音感や相対音感というのはいらなくて、これは音楽を始めれば誰でも経験することができる。
どれだけ普段息がぴったりでも、実際ともなればまた話は変わってくるのだ。
一曲一曲、丁寧に仕上げることは何よりも大切だが、それよりも彼女たちにとって大切なことがある。
とにかく楽しむということ。
言い合いに近いような意見の交換もしばしばだが、その分彼女たちの演奏している時の表情はとても真剣で、その中で楽しそうな表情も詰まっている。
みんな、一人だったのが何かの縁でバンドを組んでいる。その事実がとても楽しくて、嬉しくて、何者にも変え難い事実で。
初めて合わせた時の苦労もわかっており、全てバラバラだった。
みんなが覚えている記憶の範囲内で練習していたからだ。
そこで指揮を取ったのがバンド経験がある紗奈。一つ一つゆっくり確認しながら演奏していけば己の自己中心的な演奏から協力し合える演奏へと変わっていく。
ともなればどんどんバンドとして完成していく、といわけだ。
今日の練習を終え、道具を片付け玄関口付近にある自販機へ4人は向かうと美步が徐にお金を入れ4人分のジュースを奢る。
好みは聞かず全員同じジュース、炭酸系のジュースを購入する。
「はいっ!ひとまずお疲れ様!」
「ありがとうございます!」
大事な大会を控えている野球部以外は基本運動部はオフ。自販機に屯しているのはこの4人だけになる。
普段は運動部の汗臭い匂いで満帆になるのだが。
「テストもライブも行けそう?」
「いやーテストは英語以外は厳しいっすねぇ……。」
「そらあんた英語は母国語だろうがよ。」
アリスのボケに紗奈もすかさずつっこむ。
「だってあんな日常会話、基本しないよ!?日本の英語教育やばいって。『Pardon?』とか私使ったことないよ!?」
「あれだろ、それで煽ってきたやついるだろ。お前アメリカ人なのに。」
「ほんとだよ!あれはちょっとムカついたね。」
「それってサッカー部の……。」
「そうそうそう!!」
1年生同士会話というのは見ていて楽しい。美步は3人の会話を外から見てしみじみと感じる。ペットボトルに口をつけ一つ思い切って飲めば、炭酸が喉を刺激しその冷たさもクセになる。
蒸し暑い日本に炭酸のない夏なんて、とてと考えられない。
「美步さん。」
「ん?どうしたの紗奈?」
アリスと千景は会話してる中、紗奈が話しかける。
「ぶっちゃけた話、皆さん成長速度エグいです。」
「エグい……?」
小さな声で耳打ちするように話す紗奈。紗奈は次のように述べていく。
「アリスも最初からかなり技術がありました。ボーカルとしての質もあるけれど、練習していくたびに歌が上手くなってます。アタシが好きな、芯があって声が通って、媚びない歌い方……。ギターの魅せ方も観客に向けてというバッキングになってきて見ていて気持ちいいです。」
「千景は本当にわかりやすくて、初心者だからこそいろんなものを吸収していってます。要領がいいのかはわかりませんが、成長スピードがとてつもなく早くて………1ヶ月で4曲やれるようになるのはとてもじゃないですけど、奇跡としか……。」
「それはね、私も思ってた。」
入るきっかけはどうであれ、音楽の道を歩み始めた千景。
基本1ヶ月で一曲できればいい方だが、それをどんどん吸収し3曲、4曲と増やしていった。
ベースそのものの技術はまだまだだが、曲を弾けるようになるということだけで万々歳だ。
「それをいうなら私は紗奈も成長してるなって感じるよ?」
「えっ?」
思わず声を漏らした紗奈。美步は続ける。
「だってとてもじゃないけどイップスがあったとは思えないくらい上手くなったんだもん。」
「最初は流石にバスドラムのぎこちなさは残ってたけどそれでも練習を重ねればスピーディーになって……。今じゃ2ビートもしっかり踏めるようになったもんね。」
「……っ。あざす。」
照れ隠しをしながら笑う彼女。男勝りな性格をしているからか、かっこいいと思っていたがそんな表情を見れば可愛いな、とも思うように。
「何話してるの!?」
アリスが元気よく飛び込んでくるが紗奈ははぐらかした。その後に後ろを千景がついてくる。
「とりあえずはテスト頑張って、そしてライブも頑張ろうって話をしてたの。」
「本当だよ!私マジで楽しみ!」
「逆に私は緊張しちゃうな……。」
「大丈夫だよ千景。」
美步は千景に歩み寄る。
「貴女が頑張ってるのは私たち3人がよく知ってる。どれだけミスしてもいい。絶対カバーするから安心して。」
両肩に手を乗せ励ますと、千景も安心したのかこくりと頷いた。
「とりあえずテスト頑張るぞー!!!」
アリスは夕陽に向かって叫んだ。
しかし7月第1週目に行われた期末試験。
各々ある程度の手応えを感じながらも、アリスは国語と数学で思いっきり躓き、魂が抜けたような顔でライブをすることに。
切り替えの速さはどうも苦手らしい。




