第1話「パンクを聴こうぜ野郎ども!」
音楽が大好きな貴方へ。
パンクロックが始まる序章を見逃すな。
1990年代に日本を揺るがし日本の音楽シーンの土台を築き上げ、革命を起こした2つの伝説的パンクバンドが存在した。
1つはそのボーカルの狂乱っぷりにお茶の間の人々は度肝を抜いたが、よくよく聴いてみると丁寧だけど激しいドラム、安定したベース、楽しそうでもあり悲しそうな演出のできるギター。
そしてその狂乱っぷりすらカリスマの1つとして愛されたボーカル。
お茶の間に「パンクロックとは何か」を普及させ日本にパンクシーンの到来を告げた。
「パンクロックとはなにか」「音楽とは何か」
「ロックとは何か」を突きつけた、伝説的なバンドだ。
もう1つは先述のバンドとは違い逆輸入系バンドだ。英詞ばかりでパンクロック本場のアメリカをインスパイアしたバンドだ。
最初は受け入れられなかったが、ライブハウスでの圧倒的パフォーマンスによってどんどん口コミが広まり伝説的なバンドへとのし上がった。
3ピースのバンドだが常に明るいギターのコード進行、そして哀愁溢れる歌声と人間の良し悪しを語った英詞は瞬く間に人気になり地位を築き上げた。
そしてそのバンドがバンド主催として日本初のフェスを開催したことにより今日まで続く「フェス文化」が根付いていくことになる。
2000年代前半に訪れた「青春パンクロック・パンクロックブーム」のほとんどが彼らに影響され、またここの時期に生まれ彼らと同様、今日活躍するアーティスト達に多大なる影響と音楽シーンを変えたバンドも誕生した。
しかし年が経つにつれパンクロックは下火となり好きな人が少ないと言われるくらいには下火となってしまった。
それと同じようにパンクロックを主体とするバンドが売れることも少なくなり、お茶の間に出ることもかなり少なくなった。
アニメや漫画で描かれるロックも「パンクロック」「オルタナティブロック」には誰も触れやしない。
仕方ないのだ。音楽の多様性が一気に広がったのだから。
桜舞う、桜咲く4月。
出会いの季節であるこの季節、穏やかな空気が出会いの喜びを優しく包む。
教室の賑わいも皆、新たな出会いに喜んでいることが感じ取れるというのだから。
そのうちの1人、彼女も例外ではなかった。
「へー!!音楽やってるんだ!!」
とあるクラスメイト達に話しかけられた彼女。話しかけられ感心されると頬を指でかいて少しだけ気恥ずかしそうにする。
「ギターを中学の頃からやっててさ。曲弾くのが楽しくなっちゃって。」
「何か弾けるの?」
「私が好きな曲ならって感じかな。」
「すごいねアリスちゃん!!」
アリスは照れ隠しではあるものの、「へへへ」と目を細めて笑う。
曲を弾く、クラスメイトには言わなかったが曲を作るというのは音楽をやっている者からすると至極と言ってもいい。
既にある曲をコピーするのも確かに楽しいが、そこにアレンジを加えるのもいい。そこから派生し曲を作るとなれば自分の世界を表すことができる。
その喜びをアリスは知っている。それに没頭している。
「アリスはどんな曲聴くの?」
話を聞いていたのか、自分の席の前に座る男子が先程まで前を向いていたがくるりと回り、アリスの机に腕を置く。
「えー……っと、こんな感じの曲。」
スマホをスイスイと素早く指を動かし音楽アプリを開く。
そこに「バンドのおきに」と書かれたセットリストを開く。
音量ボタンを上げ騒がしい教室の中でも聴こえるようにする。
複数人がアリスの机を囲んでいるから、その間でしか聴こえないようにした。
「こんな曲でさ。」
アリスが曲をタップするとその曲の再生が始まる。
ハイハットを2回鳴らし、ドラムのスネアの連打から曲が始まった。
ギターのメロディーはとても明るい。一つ一つの音が高く、単音が続いてるように。
イントロが終わるとドラムの音と、まるで女性かと思ってしまうほどの高い男性ボーカルの声。
しかし曲調は激しく、速い。
サビに入るとそれが明らかになり、バスドラムのテンポのいいふみっぷり、リードギターの騒がしいサウンド、ベースの邪魔しない程度に掻き鳴らす爽快感。
自分が好きな曲、と言うのもあるがこれを聞いていて口角が上がるのが止まらず、心もメロディックなサウンドに跳ねて踊っている。
「ねえいいでしょこれ!!私こう言うの好きなんだ。」
アリスは興奮のままそうクラスメイト達に言ったが、周りの反応は特に良くなかった。
皆が訝しんだ。
「知らないなあこれ……。」
「こんなに速いの聞けないなあ。」
「ねー。やっぱりゆっくりでエモい感じが『バンド』って感じがする!」
みんなの顔が気難しそうに少し眉を寄せた。
仕方ないのだ。
彼らも悪気があってそう言ったのではなく、実直に思った感想を言っただけなのだ。
アリスはその感想を聞いて一瞬固まった。
知らないのは仕方ない。それは出会えなかっただけだから。
ただこんなにカッコいいバンドの曲を聴けないと言うのか。
激しい曲をするからこそ、バンドはカッコよく輝けるのではないのか?
「激しい曲をやるからこそバンドはカッコいいんだろ!!」
と言ってやりたいところだが、アリスは言わなかった。
そんなことを言ってしまっては4月というまだ出会いも間もない頃に関係を悪化させては良くないからだ。
なんとか作り笑いの笑顔で「そうだね。 」と言って誤魔化すと、なんとかこの気持ちを吐き出したいアリスは「ごめんトイレ行ってくる! 」と言って席を立つ。
その場から少し逃げ出したいかのようにガタッと勢いよく立ち上がると、早足で教室を出た。
「F××kin hell!!!! 」
トイレに入った際、誰もいないことを確認した上で便座に座りそう叫ぶ。
少ない反射だが自分の叫び声が耳に刺さる
「やっぱ皆そうだったのかよ!!」
「いいじゃんメロコアにパンク!!」
「共感してくれとは言わないけどそこまで言う!?」
「激しい曲やってこそロックバンドだろうが!!」
割と激し目の本音を吐いた。
誰もいない、聞いていないと思って大声で叫んだ。
パンクロックが下火になり好きな人はもちろんいるが、音楽業界全体で見れば数は大していない。
そのためアリスのような存在は一般的な音楽好きに対しては「異物」となってしまうのだ。
またフェスでパンク系バンドが出ると「ダイブ」と呼ばれる観客が横になり上を転がったり、「モッシュ」と呼ばれる特定の動きをしたり……。
そう言った部分で恐れられている、と言う部分もある。
アリス・グティレス。
中学に来日し、父の音楽の影響でロックソングに目覚める。
更にそこからパンクロックやメロディックハードコアなど「激しい曲」を聴き、そして時には作曲にも勤しむなど……、音楽中心。もっと言えば「ロック中心」の生活になっている。
そんな中で彼女が確立した考えが
「ロックはカッコよくあるべき」である。
どんな形の曲でもいいが、やはりライブハウスやフェスで魂込めて演奏して、自分のありのままを曝け出すバンドマンというのはとてもかっこいいのだ。
そんなわけで彼女がここ最近流行っている「ポップ系のロック」の一辺倒至上主義に対してはとてつもない嫌悪感を抱くことがある。
用件のトイレも済まし洗面台で手を洗い、前髪をちょいちょいといじった時、後ろから突然話しかけられる。
「やぁ!!」
その言葉にアリスはぐるんっとすぐに首を振る。
瞬間的な速さに、話しかけた女性はびっくりしている。
「ははっ、すごいや!!」
その速さについ笑いが起きる。
「え、もしかして全部聞いてました?」
「もちろん!!」
「っ……!!はぁぁぁ……。」
彼女が笑顔で言った瞬間、とても大きなため息をついてしゃがんで両手で頭を抱える。
恥ずかしさいっぱい。そしてもしかしたらこの人もポップ系の曲を愛しているのかもしれない。
そう考えた時、アリスはとんでもないことを口走ったと理解できた。
「すみません、つい愚痴を漏らしちゃって……。」
「いいよいいよ!!私もその気持ちわかるからさ。」
「そんな曲達をさ、私たちで弾いてみない?」
「えっ?」
「私もパンク、大好きだし。」
アリスは顔を上げた。
少し茶髪でミディアム系の女性、雰囲気からして歳上のようだ。
赤い瞳が私を見下ろす。しゃがんだ私に手を差し伸べる。
「勢北高校軽音部に入らない?」
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