その99 神の力を持つとされた魔物
「ご心配どーも。だが、こう言っちゃなんだが、マイ一人じゃあ、あのコアトルを倒すのは難しいんじゃねーか?」
「む……そんなこと……」
「コアトルの『叫び』は広範囲の生物の聴覚にショックを与える。慣れてりゃ大丈夫だが、お前さっきうずくまってただろ」
「あ、あれは油断していただけで」
「だが効いたことは確かだ。もし上空でまためまいでも起こしたら、今度は確実に死ぬぜ。コアトルに殺られるまでもなく、地面に激突してな」
「……っ」
マイがごくりと息を飲む。心に緊張が走りながらも箒の操縦がぶれないのはさすがだと言いたいところだ。
昼間の俺への襲撃の時もそうだったが、マイはいまでこそメイドだが、もしかして戦いに慣れているのだろうか。
そうこうしているうちに、月や星が照らす視界の中に影が混ざる。視線をマイから上に向けると、そこに俺達を待ち構えるようにしてコアトルが滞空していた。
コアトル。いまでこそ魔物の一種とされているが、かつては神獣として様々な村や地方で祀られていた存在。
その強靭な顎はあらゆるものを噛み砕き、その巨体は全てを押し潰すと伝えられている。鳥のように手と一体化している羽は二対一組のものがいくつも並び、その数によってその個体がどれほどの年月生きているのかを推測出来る。
若い個体は身体が小さく羽も少ないのに対し、長寿のコアトルほど身体は巨躯となり羽の数も増えていく。また魔物を記した図鑑によれば、時には羽に本当に腕がある個体もいるとされ、その個体は鉄をも切り裂く強力な爪をも持つという。
「戦闘準備をしろ、マイ。奴はかつて神の力を持つとされた魔物だ。一瞬の油断が命取りになる」
「……っ」
頭上にいるコアトルの大きさは大蛇ほど。胴回りの太さは二、三十センチくらい、身体の全長は五、六メートルくらいだ。
百年以上生きた個体ではないだろうが、かといって子供の個体でもない。ランクで表せば、おそらくAランク前後だろう。
強いが、ランクだけで見れば俺でも倒せない相手ではないだろう。問題があるとすれば……。
『……ッ!』
コアトルが口を大きく開ける。次の行動に移る為の予備動作であり、これから予測される行動は『叫び』か『噛み砕き』、あるいは……。
「マイ!」
「分かっている!」
いずれにしろ、指をくわえて待っているわけにはいかない。マイは手にはたきを出現させると、その布地の部分をコアトルへと猛スピードで伸ばしていく。
「巻き付け! 『クロスダスター』!」




