その93 月に影
(そういや、後で買い出しに行こうと思って、そのまま忘れてたな……)
午後のクエストが終わった後なら、ちょうど夕方頃で値引き品が買えるから。その時間帯をいつも狙って買っているのだが、昨日今日はその機会がなかったからな。
(仕方ない、いまから買いに行くか)
いつも値引きが実施されている時間帯よりもやや遅く、おそらくはもう大半が買われてしまっているだろうが。しかし何かしらは残っていると思うから、とにかく近くの食料品店に行こう。
最近の夜はちょっと寒くなってきたので、防寒の為の上着を羽織って、俺は外へと出る。背の高い外灯が照らす道に人通りは少ない。
ここは街の中心や繁華街からは離れている場所だからな、いまの時間帯は家に帰って夕食を食ってるんだろう。俺だって食料が残っていれば、家でそれを食って、その後は雑誌や漫画を読んだりシャワーを浴びたりしてたわけだし。
そうして外灯が照らす道を歩き、食料品店に到着して、約二十分後、俺は無事に買い出しを済ませて帰宅の途についていた。
戦利品は半額になっていた弁当や惣菜、パン、後は安かった豆腐とか野菜とか納豆とか牛乳とか。米を買って自炊すればもっと安く済ませられるかもしれないが、今日はもう面倒だったのでこれにした。
紙袋に入ったそれらを手で持ち歩くのは少々疲れるので、収納の指輪の収納空間に入れていた。おかげで両手があいて身軽だし疲れないしで、やはり収納アイテムは便利で良いねぇ。
口笛でも吹きたい気分だったが、よく考えたら口笛吹けなかったな。まあいいや。
そんなふうにして人通りの少ない夜の道を家に向かって歩いていると、不意に上空に鎮座する月に影が映り込む。何だと思って目を凝らしてみると、月を横切ろうとしているのは箒らしきものに立ち乗りしている人のシルエットだった。
「まさかマイか?」
空飛ぶ箒に、立ち乗り。よく見れば着ている衣服もメイド服っぽい。もはや思い当たるのはマイ以外にいなかった。
「どこに向かってんだ、あいつ?」
空飛ぶ箒に乗る女……シチュエーションだけ見れば、まさに小説や漫画の中の魔女っぽく見える。実際は、はた迷惑なメイド少女だが。
「まあいいか。あいつがどこ行こうが、あいつの勝手だし」
と思っていたら、マイは俺がいま歩いている道の先に降りてきて、書店の中へと入っていった。何かの本を買いに来たらしい。
「…………」
あいつがどこで何を買おうが、あいつの勝手だ。べ、別に気になるわけではない。だが……。




