その90 答えて
「いやー、最初からこうすりゃ良かったなー」
腰に手を当てながら大家が言う。まったくもってその通りだが、そもそもあんたが部屋を汚し過ぎてるのも悪い。こうならないよう対策してなかったわけだし。
マイも文句を言ってきた。何故か俺に。
「しっかし、準備がいいですよねー。アパートの全部屋分も買ってるなんて」
「一応念の為に多めに買っておいただけだ。失敗した時のことや、あと自分の部屋でも使おうと思ってたし」
「ふーん」
なんかつっけんどんな言い方。ファラも、
「マイっ」
と小声で注意している。
カフェの女店員の時もそうだが、どうやら俺は異性に好かれない性質らしい。……まあ、別にいいけど。ふ、ふんっ、強がってるわけじゃないからな!
もくもくもくもく。俺達はアパートの前で、玄関のドアの隙間から煙が蛇のように出てきているのを見つめる。ふわあーぁと欠伸をしながら大家が言ってきた。
「燻蒸が終わるまで時間が掛かるし、それまでオレはそこら辺ぶらぶらしてくるわ」
手をひらひらとさせながら、大家は道を公園がある方へと歩いていった。他の住人達も三々五々、時間潰しに別れていて、いまアパートの前にいるのは俺とファラとマイの三人だけだ。
「不用心だな。燻蒸中とはいえ鍵開けっぱなしなのに」
まあ、あんな安アパートに空き巣に入るような奴もいないだろうが。いかにも金目のものはなさそうだし。逆に燻蒸にやられて、虫やねずみ共々お陀仏になるのがオチか。
「それなら私達が見張ってることにしましょうか。それとも散歩にでも行きます?」
「いや面倒くさいから、俺は遠慮しとく。いまさら散歩するほど見るもんもないしな」
ファラの提案に俺は答える。
「行くなら二人で行ってきていいぞ。俺はここにいるから」
「いえ……ジークさんがいるなら、私達もここにいます。聞きたいこともありますし」
ん……? ファラが身内のマイの意向を聞かずに決めるなんて……なんか違和感が……。ファラって実は根に持つタイプなのか?
「マイ」
と思っていたら、ファラがマイに向き直った。改まった真面目な様子に、マイも緊張した面持ちになる。
「な、何ですかお嬢様?」
「みんながいる前では聞けなかったけど、どうしてあんなことしたの? ジークさんをいきなり襲うなんてこと」
「……っ」
思わず俺も緊張してしまった。確かにマイとファラから謝罪は受けたが、マイがこの行動を起こした理由については聞いていない。
気にならないといえば嘘になるが、あえて俺自身は聞こうとはしなかった。なんとなくだが、聞いちゃいけないことのようでもあるし、思わぬ地雷を踏みそうに感じていたからだ。
「マイ。答えて」
しかし、ファラはその動機に踏み込んだ。




