その80 りりりり
言い訳をするつもりではないが。
「いままで住んでいたアパートとか下宿は、諸事情でことごとく壊しちまってね。大家さんや下宿屋の主人に、もう来んなって追っ払われちまったんですよ」
クエストの中には盗賊や山賊退治などもある。今回の強盗退治と似たようなもんだ。
それらのクエストを達成した後に、実は他にも仲間や協力者がいたりして、そいつらに夜襲を受けたりしたことがある。んで、そいつらに壊されたり、反撃してたらついでに壊しちまったり。
「いま住んでるアパートで何軒目になることやら。もう俺を受け入れてくれるとこがかなり少なくなってるんもんでね」
「…………」
独り言のようにつぶやいて、俺は肩をすくめる。
どうやら家屋の賃貸業界に俺はブラックリストとして登録されているっぽい。こいつを住ませたら壊されるぞ、って感じで。
いま住んでるアパートも、とにかく大家さんに頼み倒して何とか借りている状態だからな。この家をなくしたら、本当に行き場がなくてホームレスになっちまう。
「だから執事さん、俺がここに住んでるってことは悪い奴には言わないでくださいよ。もう襲撃されて家を追い出されるのは懲り懲りなんですから」
「はあ……」
まあ、ファラん家の執事なら大丈夫だろう。ファラやおっさんに信頼されているから。
そんなこんなで俺は執事に別れを告げると、アパートの自分の部屋へと向かっていく。執事も御者台に座り直すと、馬車を発進させてファラん家に帰っていった。
それから俺は部屋に入り、とにかくベッドへとダイブしていく。昨日の今朝……トランプ野郎との戦いで疲労した後に官憲の聴取を受けて、それからもずっと起きていたわけだから、もう眠気がマックスだった。
目を閉じた俺は、そのまま闇に吸い込まれるように意識を失っていった。
……。…………。……………………。
りりりり。
どこかで音が鳴っている。甲高い音。不協和音にも似ていて、聞き続けていると不安になるような音だ。
しかし、この音には聞き覚えがあった。あまり良い思い出はないが。自宅でこの音を聞く時は、たいていトラブルの前兆だという、俺ならではのジンクスがあった。
音に無理矢理起こされて、俺は薄目を開ける。頭がぼんやりする、目がしょぼしょぼする。枕元に置いている時計に目を向けると、眠い視界に針の向きが見えてくる。
短針は上、長針はその少し右。まだ昼を少し過ぎた頃だった。
りりりり。
音はいまも鳴り続けている。目覚ましの音ではない。目覚ましなんか掛けていない。この音は……部屋に置いている据え置き型の通信アイテムの音だ。
……うるせえな。
いまは睡眠中だ。後にしろ。俺は再び目を閉じて、着信音を無視して眠ろうとする。




