その79 安アパート
「レノさん……熟睡してますね……」
「疲れたんだろ。普段のギルドの仕事の疲れもあるだろうし。今日はゆっくり休ませておこう」
「はい……」
ファラはちらちらとこちらを見ながらで、返事もどこか元気がない。やはり彼女も眠気を我慢していて、レノをベッドに寝かせたらすぐにでも寝たいのかもしれない。
そしてレノをデカイベッド……何人も横になって寝られるような、屋根がついている見るからに高級そうなベッドに運んで、冷えないようにふかふかの布団と毛布を掛けてやる。
「わあおおきなマシュマロだあ」
どんな夢見てんだこいつ?
それから俺とファラは再び玄関へと戻っていく。
「見送りサンキュー、ファラ。俺ん家までの馬車は、俺一人で大丈夫だから」
御者への道案内くらいなら、俺一人でも充分出来る。彼女も早くベッドで眠らせた方がいいだろう。
そう思って言ったのだが、ファラの返事は。
「いえ、良ければ近くまでご一緒しますよ。ご自宅に着くまでお暇でしょうし、話相手として……」
「別にそこまで気を遣わなくていいぞ。ファラだって眠いだろ」
「私は……」
彼女は何かを言いかけて、やはり思い直したように。
「……そうですね……それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。今回の件では、本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げた。俺は片手を軽く上げながら。
「気にすんな。色々あったが、ファラの初クエストが無事に終わって何よりだ。んじゃな。とりあえず、次のクエストに関しては後で連絡するから」
「はい、分かりました」
俺は門の前に待機している馬車へと歩いていく。ちらりと振り返ると、ファラが片手を軽く振っていた。
……また明日。
言葉にこそしていないが、そんな別れの挨拶が聞こえてきそうなくらい、名残惜しそうな表情で。
俺も軽く手を上げて応じた後、馬車に乗り込んでいく。ファラが手を振る中、俺は家路に着いた。
その馬車の客室には御者台側に向いた小窓があり、それを開けることで御者と会話をすることが出来る。
「そこの角を右です」
馬車に揺られながら、俺は車窓を眺めつつ御者の執事に帰路を伝えていく。やがて一軒の安アパートが見えてきて、
「そこです」
馬車が停車し、俺は御者の執事に礼を述べながら下車する。執事は少し意外そうな顔をしていた。
「ここ、ですか?」
「ええ。意外でしたか?」
「いえ、その……」
執事はわずかに口ごもった後、言いにくそうに。
「お嬢様の冒険のお供をする方ということなので……もっと高級なご自宅をお持ちなのかと……。失礼……勝手に思っておりました」
「まあ、豪華な家には住みたいですけどね」




