その78 ちくり
「ありがとうございますお父さん」
ファラがこっちを向いた。レノはいまにも地面にぶっ倒れそうだし、ここは素直に甘えておこう。
「サンキュー、おっさん、ファラ。助かる」
「良かった!」
ファラが嬉しそうな顔をした。助かったのはこっちの方なのに、本当に良い奴なんだな。
「ほらレノ。ちゃんと礼言っとけ」
「ありがとー、ファラちゃんー、ファラちゃんのおっちゃんー」
言い方がなんか子供っぽい。
ファラなんか慈しむような微笑みを浮かべてるし。
「いえいえ、どういたしまして」
「うむ。礼には及ばん」
そういうことで、俺達はファラ家の馬車で帰路に着くことになった。すっげー内装が凝っていて高級そうだった。語彙力が足りないのは自覚している。眠いから。
「じ、ジークしゃんっ」
ファラが噛んだ。
「落ち着け。なに緊張してんだ?」
眠いのは俺も同じだけども。
「す、すいません。あ、あの、もしよろしければなんですけど、私の家で睡眠を取りませんか? 部屋ならたくさん余っていますし、もちろんレノさんもご一緒に」
「いいのか?」
「はいっ」
レノはもう九割方夢の中にいるようで、俺の肩に頭を乗せて、くーくーと小さな声を漏らしていた。
「マジー、これぜんぶジークのおごりー、やりー」
などという寝言まで言っている。どんだけ太っ腹なんだ夢の中の俺。
ちなみにおっさんもまた夢の中にいるようで、窓に頭をつけながら、
「うーんそこそこ頭皮マッサージは気持ちいいねえ」
とつぶやいていた。それ馬車の振動だ。
ファラの提案は正直ありがたいことではある。迎えの馬車にも同乗させてもらったし、かなり助かっている。
けども……。
「あー、いや、すまん。やっぱそこまでしてもらうのは悪い気がする。俺は家の近くまで送ってもらうだけでいいから」
「そ、そうですか……」
「ただレノはもう寝ちまってるから、レノだけはファラん家に置いといてやってくれ。部屋まで連れていくのは手伝うから」
「……分かりました……」
ファラが残念そうに応じる。せっかくの自分の申し出を断られたんだから、まあそうなるか。
心臓の辺りがちくりとしたが、いまは気付いていないふりをする。いくら冒険者としてコンビを組んでいるとはいえ、ファラに頼り過ぎるのは良くないからな。
ファラの負担が増えて、体力的な疲労や心労も増えちまうのは避けた方がいい。疲れすぎて倒れちまったら大変だからな。
そういうわけで、俺達は一度ファラのデカイ屋敷へと向かった。出迎えてくれた執事のうち二人がファラ父の身体を左右で支えて、足先を半ば引きずるようにして寝室へと連れていく。
俺はというと、完全に眠りこけているレノを起こすのもあれだったので、彼女の身体を抱きかかえて、ファラが案内する客室へと運んでいった。




