その73 局所的な暴風
「う、おおおお!」
全身の筋肉に力を込める。ボディービルダーのように筋肉が膨れ上がるわけでも、着ている衣服が破れるわけでもない。
筋肉の形質そのものが変化しているわけではないのだ。しかし、俺の身体の筋力は確かに増大しているのを感じる。いままでの二倍、三倍……それ以上に。
「吹き飛べ!」
邪魔なんだよジャック共! 俺が両腕を左右に広げると同時に、その振り払う風圧によって周囲のジャック共が吹き飛んでいく。まるで局所的な暴風が吹き荒れたように。
「……何、だと……⁉」
驚く奴へと、俺は脚に力を込めて迫る。光速だとか音速だとか、そこまでのスピードじゃない。普通に目で追える程度の高速だ。
ただし、目で追えるかどうかと身体が反応出来るかどうかは別だが。
「おらあっ!」
「……ぐっ⁉」
こいつ、俺の拳を刃のない剣身の部分で受け止めやがった。そういや『クラブ』の特性は能力の強化とか言ってたな。
だからその『クラブ』で身体能力が強化されて、俺の動きに反応出来たわけか。
「……貴様、この力……ふざけるなよ、ノースキルが俺の強化した絵札を倒せるわけがない……!」
「んなこと言われてもな」
実際にノースキルなんだから仕方がない。
「……いまの俺やジャックは三倍に強化されているんだ。貴様はいったい……」
これ以上こいつの文句に付き合っている暇はない。こうしている間もファラ達三人は他の強盗を相手にしているんだ。
レノやファラ父が苦戦するとは思わないが、こいつが覚醒スキル持ちだった以上、他にも覚醒スキルを持った奴がいないとも限らない。早いとこ、こいつを倒して合流しねえと。
俺は剣身に触れている拳にさらなる力を込める。三倍に強化されてるってんなら、それ以上の力で殴り飛ばせばいい話だ。
「お……らあっ!」
剣身に亀甲のようなヒビが入っていき、そして俺の拳は剣身を砕きながら突き破ると、その先にある奴の胴体へと直撃する。
「……ぐ……ぶ……っ⁉」
拳が奴の身体へとめり込んでいく。さすが覚醒スキルの所持者だ、腹筋は相当鍛えているらしい。だが俺は奴のその身体を、サンドバッグを吹き飛ばすように殴り飛ばした。
「…………っ⁉」
奴の身体が近くにあった木に激突し、その木をへし折りながらその先の木へとさらに激突して止まる。ずずうん……木が地面へと倒れていくのを見て、
「やっべ……」
木まで倒しちまった。これもまた弁償しなくちゃなんねえな……。少しだけ落ち込みつつ、俺は奴へと歩いていく。気絶しているといいんだが……。




