その72 『クラブのJ』
自分がノースキルだということを敢えて教える必要はなかったが……つい俺は口に出してしまっていた。たぶんだが、奴が自身の覚醒スキルの一端を先に明かしたから、俺自身も無意識のうちに公平性を気取ろうとしたのかもしれない。
情報アドバンテージという点では若干不利になっただろうが、それ以上に、俺がノースキルだということを知って、いまの拳圧弾がただの脳筋技だと知って、奴を揺さぶれたのなら儲けもんだ。
自分で脳筋だと言って少し何だかなとは思うが……まあ、それはそれとして。
「そろそろ終わらせるぜ。仲間の応援に行かなきゃなんねえんでな」
「……っ」
驚愕していた奴がハッと我に返り、身構える。
覚醒スキルは確かに強力だ。通常のスキルやノースキルでは、本来は戦いにすらならないくらいに。
だが、どうやら奴の覚醒スキルはランダム性のあるものらしい。当たりが出れば凄まじく強いが、反面外れの場合はそこまででもないようだ。ノースキルの俺がこうして対処出来るんだからな。
「……貴様がどのような力を持っていたとしても、始末しなければならない」
俺が攻撃を仕掛けるよりも早く、奴が周囲のトランプを反転させる。表出したのは『クラブのJ』。
「……絵札が出たか」
果たしてそれは当たりなのか外れなのか、俺には分からない。分かるのは、奴の周囲に何人もの増援……いや違う、棍棒を持った十一体の男達、トランプのジャックが出現したことだ。
「……奴を始末しろ」
奴の命令が下されると同時に、十一体のジャックが俺へと迫ってくる。だが数が増えただけならば、四つの盾の時と同じく拳圧弾で破壊すればいいだけだ。
十一発の拳圧弾を撃つのは一苦労だが、俺は身構える。そしてすぐさま拳を振り抜こうとした時、奴が不敵につぶやいた。
「……ジャックが出現したのは絵札の特性だ。『クラブ』の本質は、能力の強化にある」
奴の言葉の真意は即座に分かった。俺へと迫っていたジャック達のスピードが瞬間的に増して、瞬きをした時には全てのジャックが俺を囲んで棍棒を振り上げていたからだ。
「……強化は全てのジャックにも適用される。そいつらの総攻撃を受けて、死ね」
十一本の棍棒が振り下ろされる。俺は両腕を上げてそれらを防御しようとするが、防ぎきれない打撃が頭や背中、肩などに直撃していった。
「……っ⁉」
痛てえ。盾に拳をぶつけた時なんかとは比べ物にならない激痛。武器が棍棒だから出血こそしていないが、おそらく服の下は痣だらけになっているに違いない。
だが、耐えられない攻撃じゃない。そして俺は、耐えた。




