その69 トランプ
俺が通信している間に、神経質そうな男も仲間に命令して銀行の方へと走らせていた。この場、草木の生い茂る中に俺と神経質そうな男だけが残る。
「……貴様を口封じする前に、聞いておこうか。いつ俺達の計画に気付いた?」
全体の人数としては、俺達が四人、強盗達は分かっているだけで五人。おっさんやレノが簡単にやられるとは思わないが、なるべく早く片付けて三人に合流したい。
「それ答えるの、意味あるか? 俺もてめーもさっさと仲間と合流したいだろ?」
「…………それもそうだな」
奴らにいくつもの予備計画があるように、俺達の作戦にもいくつかのルートを用意していた。
ルートAは『Assassin』。隠密行動で奴らの計画を潰していく作戦。
そしていまのルートBは『Berserker』。俺達の存在がバレちまった時の作戦で、こうなりゃ仕方ねえから暴れまくれ! っていう作戦だ。
目の前の奴が臨戦態勢を身構えるよりも早く、俺はその場から飛び出して拳を振りかぶる。
「……速いな」
感想を漏らした奴が、しかし殴りかかる俺の拳を、首をわずかに横に傾けて回避する。
「何……⁉」
「……だが無駄も多い。正統な武術を学んでいない動きだ」
その口振りは、自身は正統な武術を学んでいると言っているようなもの。男は顔の横にある俺の腕に触れると、洗練された動きで身を翻して俺の身体を投げ飛ばした。
「ぐ……っ⁉」
これは……一本背負いとかいう技だ。スキルによる特技ではなく、東の国とやらに伝わる武術の、純粋な体術。
俺も詳しいことは知らないが、本来は自分のそばの地面に叩きつける技だったはずだ。しかし男は技の途中で掴んでいた手を離して、俺の身体を投げ飛ばし一、二メートル先の木の根元にぶつけやがった。
「……どんなに力が強くとも、当たらなければ意味がない」
皮肉を込めて男が言ってくる。俺の鍛え上げたパワーも、避けてしまえばそれで終わりということだ。
さらに回避と同時に攻撃することで、無駄なく敵にダメージを与えることも出来る。洗練された動きならば、自身の疲労も最小限に抑えることが可能だ。
「だったら、当たるまで攻撃し続けるだけだな」
すぐさま体勢を立て直しながら俺は不敵に答える。俺の攻撃は強力だという自負はある。ワンパンは出来なくとも、当たりさえすれば相当なダメージを与えられるのは間違いない。
「……無駄なことを。だが、時間は惜しい。即刻、決めさせてもらう」
男が懐から何かを取り出した。手に収まるくらいの大きさの長方形、いや直方体の物体だ。まるでトランプのような……。
「……『神経、衰弱』」
男が手に持っていた直方体のものを頭上へと投げる。それはまさにトランプであり、数十枚の紙束はバラバラになり周囲の空中へと浮遊する。
本来の物理現象から逸脱した現象。これはまさか……。
「スキルか⁉」
「……覚醒スキルだ」




