その68 ルートB
「こちらジークだ。馬車からは何人出てきた?」
この通信アイテムには小さなボタンがいくつか付いており、事前に設定した他の通信アイテムとの個別通信や全体通信が可能になっている。いまは全員に会話内容が分かるように全体通信にしていた。
『三人です。全員、仮面で顔を隠しています』
間違いなさそうだ。
『どうします? いますぐ取り押さえますか?』
「待て。奴らの持つダイナマイトの位置を確認するのが先だ。そのまま監視を続けろ。俺達もすぐにそっちに……」
その時、俺の近くの茂みがガサリと音を立てた。とっさに目を向けると同時に、鋭い刃のような男の声が発せられてくる。
「……何故いま、ここに人がいる?」
クエストの荷物受け渡しの時に出会い、荷馬車の中で今回の計画について話していた男……神経質そうな顔をした男がそこにいた。
銀行前の馬車から降りてきた奴らとは違い、顔を隠す仮面を付けていない。そばには黒いマスクで口元を隠したもう一人の男がいる。
「も、もしかして銀行の警備員か⁉」
そのもう一人の男が驚いた声を上げるが、神経質そうな男は手を横に伸ばして、それ以上の大声を制した。
「……いや、警備員ではないようだ。その顔と出で立ち……貴様、昼間クエストでやってきた冒険者か」
まさか覚えられてるとはな。喜ぶべきか、油断させられなくて残念がるべきか。
そいつは他の奴らよりも頭が切れるようだ。一早く俺の正体に気付いたそいつは、いまの状況をある程度察したらしい、そばにいた仲間に指示を出した。
「……お前は早く行け。計画はアルファからベータに移行する。他の奴らにも伝えろ」
「わ、分かった。お前は?」
「……俺はこいつを始末する。増援を呼ばれる前に」
耳に付けた通信アイテムからファラの声が聞こえてくる。
『ジークさん? どうしました?』
「奴らの仲間に見つかった」
『……っ⁉』
「よってこれより作戦をルートBに変更する」
『それって……!』
ファラ以外の二人にも伝わるように、俺は不敵な顔をしながら言い放つ。
「お前ら、思う存分暴れやがれ!」
『『『……っ!』』』
その言葉と同時に、茂みの向こうの方からおっさんの吠えるような大声が響いてきた。
「待ってろよおお! 我が愛しの娘よおお!」
暴風が吹き荒れたかのような音と衝撃も響いてくる。あのおっさん、自分のスキルを使ったようだ。
『ファラちゃんのお父さんは元気だねぇ。で、私の助けは必要かい、ジーク?』
通信アイテムからレノの声。俺は耳元に手を当てながら。
「必要ない。お前も早く二人のところに行ってくれ」
『りょーかい。私以外の奴にやられるなよー。ま、ジークは殺しても死なないだろーけど』
「うっせーよ」
人を黒光りする害虫みたいに言うな。




