その63 たとえ何があっても
俺は体力だけが取り柄のノースキルだし、ファラのスキルは弓矢だ。
「ちなみになんだが、ファラのスキルの特技で何とか出来る方法はあったりするか?」
「……私、ですか……?」
ファラは考え込むが……やがて首を横に振った。
「すみません、私のスキルの特技ではお役に立てられそうなのはちょっと……」
「確か、『分身射撃』と『影縛り』だったな。他は何があるんだ?」
聞いた直後に、俺は訂正した。
「あ、いやすまん。別に言いたくなければ言わなくていいんだが」
「……? 私のスキルで他に使えるのはレベル3の『強撃』ですね。その名の通り、普通の射撃よりも高威力の一撃を放つ技です」
「……そうか。わりとあっさり教えてくれるんだな」
「……はあ……?」
俺の言った意味が分からないというようにファラは首を傾げる。言い訳をするつもりではないが、俺は説明した。
「あー、いや、冒険者ってのはたとえ仲間内でも自分のスキルに関しては、大まかな能力は教えても詳細は伏せることが多いんだ。弱点とか対策法とか研究されないようにな」
「仲間なのに、ですか……?」
ファラは心底疑問に思っているらしい。仲間なのに何故自分のスキルを秘密にするのか、何故仲間の弱点や対策を研究するのか? と。
ファラのその感覚が、普通の一般人の考え方なんだろうな……。俺は頭をぽりぽりとかきながら、何とか説明というか言語化する。
「あー、そのな、冒険者の仲間って言っても色々あってだな。ついこの前まで仲間だった奴が、いまこの瞬間には敵になっているなんてことがわりとあるんだ」
「……裏切った、というものですか……?」
「そういうこともあるし、ただ単にパーティーを離脱した後でクエストやら目的の相違やらで敵対したりとかするってことだな」
「…………」
ファラは真面目な顔で押し黙ってしまった。普通の奴の感覚からすれば、にわかには信じにくいことだからだろう。
ややあってファラが聞いてくる。
「……もしかして……ジークさんにもそういったことがあったんですか?」
その質問は心配する気持ちから来ているのか、それともただの確認に過ぎないのか。いずれにしろ、俺は少し目を逸らしながら答えた。
「まあ……全くなかったと言えば嘘にはなるわな。だがファラが心配するほどのことじゃない。冒険者として活動していれば誰だって一度は経験するもんだし、そういう清濁併せ呑んだ上で自分の目的を果たすことも必要だからな」
「…………」
逆に以前は敵対していた奴と、利害の一致から一時的に協力するなんてことも普通にある。まあ要は、冒険者間での対人関係においては、そういうのは恨みっこなしというかお互い様というか、目的に失敗したり死んだりしても自己責任というのが暗黙の了解みたいになっている。
「だからファラも、今後もずっと冒険者を続けていくつもりなら覚えておけよ。敵とか味方ってのはその場の状況次第でころころ変わるから、一々ショックを受けてたら切りがない。自分が死なない為にも、状況が変わったと思ったら即座に気持ちを切り替えるんだぞ」
「…………分かりました」
少し間を置いてからの返答。憧れていた冒険者というものの実態の片鱗を知って、もしかしたらショックを受けているのかもしれない。
だが、知っておかないと……冒険者とはそういうものだと受け入れておかないと、それこそ危険な目に遭いかねないからな。
「それはそれとして、いまは銀行強盗共をどうにかしないとな。早く何か策を考えねえと……」
「……あの……」
「ん? 何か思い付いたのか?」
俺が話を元に戻そうとした時、ファラが至って真面目な顔で言ってきた。
「私は、たとえ何があってもジークさんの味方ですし、ジークさんのことを信じてますからね」
「…………」
真剣な彼女の言葉に、俺は虚を突かれてしまっていた。あるいは間抜けな顔にもなっていたかもしれない。それくらいファラの言葉は俺にとって意外なものだった。
「……お、おう」
そのせいだからか、俺の口から出たのはそんな声だった。もっと上手い言葉でも返せよと思ったが、何も良い返答が思い付かなかったんだから仕方がない。




