その60 荷台の中
その馬車は荷馬車であり、運転する御者台の後ろに荷物を置いておく荷台が付いている。荷台は人間なら十人から十五人くらいは入れそうなくらいの大きさで、雨風を防ぐ為の幌が掛けられていた。
俺はファラに目配せをして、その荷馬車を顎で示す。
「……奴らが戻ってくる前に調べるぞ。もし出来るなら隠れて乗り込もう」
「……分かりました」
俺達は路地から出て荷馬車へと向かう。裏口付近の窓に注意しておくが、カーテンの隙間から外の様子を窺っている気配はなかった。
荷馬車の後ろへと回り込むと、普通なら開け放していることが多い荷台の後ろ口にも幌が掛かっていた。通行人などの通り過ぎる他人にすら見せたくないようなものを積んでいるのか?
俺は荷台の後ろの幌を少し開けて、ざっと中を覗いてみる。
「……何かありましたか?」
「……いや、暗くてよく分かんねえな」
四方を幌で囲っているせいで内部は暗く、ちょっと見ただけでは何があるのかは判然としない。ただ少なくとも結構な数のものが雑多に積まれていて、奥には毛布らしきものがあるのが何とか分かるくらいだった。
「……いま分かるのは毛布くらいだが、他はもうちょいちゃんと見ねえと判別出来ねえな」
「……ジークさん……っ!」
ファラが小声で緊張した声を出す。
「……裏口から声が聞こえてきますっ。戻ってきたようですっ」
チッ、もうか。ここから離れている時間はなさそうだ。
「……ファラ、中に隠れるぞ」
俺はすかさず荷台の中へと飛び込むように入り、ファラへと手を差し出す。俺の手を取った彼女を引っ張り込むようにして入れると、彼女を連れて荷台の奥、毛布が置かれているところまで行って、すぐさまその毛布を二人して被って身を横たえらせた。
「……いま音がしなかったか?」
「猫じゃないか? ほら、荷台の下から出ていきやがった」
幌の外でそんな声がした。サンキュー野良猫。
「……食いもんでも載せてるんじゃないだろうな?」
「荷台に載せたら運転してる時にすぐに食えないだろ。御者台に置いてるよ」
「……チッ」
不愉快そうな声。やっぱりあの男、見た目の印象通り神経質な性格らしい。
「それより、例のブツはあるんだろうな? あれがないと計画が台無しだぜ?」
「……ある。さっき善良な冒険者が届けてくれた。心配はいらない」
「そいつぁ良かった。んじゃ出発するとしようか」
「……他の奴は合流地点にいるだろうな?」
「あたぼうよ。あんたと例のブツがやってくるのを首を長くして待ってやがるぜ」
「……そうか」




