その59 一台の馬車
俺達は路地から出て、目的の倉庫の左右の路地へと別れる。左手側にある倉庫の窓を見て回っていくが……鍵が開いている窓は一つもなかった。一階だけでなく、もちろん二階も含めて。
ややあって、倉庫の裏側で俺達は合流する。近くには裏口があったので、話し声や気配を悟られないように距離を取った。一応小声で話をする。
「……あったか?」
「……いえ、ありませんでした。ジークさんの方は?」
「……俺の方もだ。さて、これからどうすっかな……」
俺はまたも思案する。そうほいほいと良い案が浮かぶとも思えないが、考えねえと始まらない。と、思っていたらファラが軽く手を上げながら口を開いた。
「……あの、私も考えていたんですけど……」
自信なさげな口調。だが俺はその先を促した。
「……何だ?」
「……屋根から中に入ることは出来ませんかね? 煙突とか空調の為のダクトとかから」
「……あったのか? そういうの?」
「……いえ……分かりません……もしかしたらあるかもと思って……」
「……ふむ……」
ファラが自分から意見を言うとはな。いままでは俺が聞かないと言ってこなかったが……。だがしかし……。
「……アイデア自体は面白いと思うが、残念ながら却下だ。屋根を歩く音で気付かれる可能性が高い」
「……そう、ですよね……」
口振りからして、ファラも駄目かもと思っていたらしい。残念そうに顔を俯ける彼女に俺は言う。
「……だが、意見を言うこと自体はいいことだ。今回は駄目な可能性の方が高いから却下になっただけで、今後も何かあればじゃんじゃん言ってくれ」
「……は、はい……っ!」
小声で意気込むファラ。器用だな。どことなく嬉しそうにも見える。
その時、道の向こうから一台の馬車がこちらへと走ってくるのが見えた。まだ距離はだいぶあるが、ここに突っ立っているのを見咎められると面倒だ。
「……ファラ、馬車が来た。いったん隠れるぞ」
「……はい」
俺達は別の倉庫の路地へと素早く身を潜ませる。息を殺して馬車が通りすぎるのを待っていると、意外にもその馬車は件の倉庫の前に停車した。
……まさか……。そのまさかの通り、馬車から降りてきた帽子を被った中年の男は、裏口の呼び鈴を一定のリズムで鳴らした。仲間内の符号だったらしく、裏口が開いてさっき俺達があった男が出て何やら会話をしている。
「……準備は?」
「ばっちりだ」
「……よし、入れ」
言われた中年の男が倉庫の中へと入っていく。馬車には誰も残っていないようだった。




