その55 怪しい
「気付いてたか? 倉庫で受取人の男と話している間、俺は俺やファラの名前は伏せていたし、俺達に関する身分情報も避けていた」
「……あ……」
「何故そうしたと思う?」
ファラは俺を見つめてくる。
「……何故ですか……?」
「分からなくても分からないなりに自分の意見は言うもんだぜ。いつでも誰かが正解を言ってくれるとは限らないからな」
「……ジークさんって、やっぱり意地悪ですよね。ルーマさんの言う通りです」
ルーマ、確かカフェのウエイトレスの名前だったな。
「まあな。とりあえずいまは親切を発揮して、俺が言っておこう。俺がそうした理由、そんなの簡単だ、あの届け先が怪しいと思ったからだ。届け先だけじゃなく、このクエストの依頼主もだがな」
「……っ⁉」
ファラは目を丸くした。
「怪しい……かったのですか?」
「ファラは初めてのクエストだからすぐには分からなくても仕方ないかもな」
俺は説明していく。
「まず今回届けた荷物だが、一辺が十数センチの箱が三つ。秘匿設定になっていたとはいえ、中身は予想がつく。おそらく収納アイテムの指輪とかそんなのだろう、ファラがいま付けているのと同じような」
「……これと同じもの……」
ファラが腕を上げて、その指に付けている指輪を見る。
「それは確かに高価なものだが、あくまでサポートアイテムとしては、だ。いくら三つ運ぶとしても、今回のクエストの成功報酬には見合ってない。明らかに高額過ぎる」
「……そうなんですか……?」
「ああ。今回の成功報酬があれば、同じ指輪が十個くらいは余裕で買えるだろう。それなら依頼主が自分で買って、自分で届けるなり郵送した方が早いし安い」
「……確実に届けたかったんじゃないですか? クエストで冒険者に依頼した方が安全でしょうし……」
俺はうなずく。
「そうかもな。まあ、だとしても高額だが。そして依頼主には、確実に安全に、加えて誰にも自分の正体を知られずに届けたい気持ちがあった」
「え……?」
「今回のクエストについて、俺はあのアイテム店のおっさんが依頼主だと勘違いしていた。何でだと思う?」
「…………」
次の問いに、ファラは思案する素振りを見せる。さっきの俺の言葉を聞き入れたからか、今度は顔を向けて答えた。
「……いま思い出しましたけど、このクエストの依頼主の欄、秘匿されていましたね。トップシークレットって」
「そうだ。だから俺は、実際に会って荷物を受け取ったおっさんを依頼主だと誤解した。こういうクエストでは普通、依頼主やその関係者から荷物を受け取るからな」
「……そういうものなんですか……」
「ああ。だがおっさんはただの仲介者で、そのことはクエストの備考欄にも書かれていなかった」
「……依頼主がギルドの職員に伝え忘れただけ、ということは?」
「それも充分あり得る。俺も一度はそう思った。だがな……」
俺はそこで歩いていた足を止めた。ファラも立ち止まる。俺は彼女に顔を向けて。
「匂うんだ。俺の冒険者としての勘が、このクエストは気を付けた方がいいって言ってくる」
「勘……ですか……?」
「ああ。確実な証拠や証言があるわけじゃない。だが、断片的な情報に俺の推測を組み合わせると、今回のこれには何かしら裏があるかもしれねえって結論になるんだ」
「…………」




