その54 ちょっとタンマ
ファラが頭を僅かにのけぞらせて痛む声を出す。額を押さえながらその場にうずくまる。そしてガバッと立ち上がると文句を言ってきた。
「痛いじゃないですか⁉ いきなり何するんですか⁉」
そんなファラの赤くなっている額に人差し指を突きつけながら。
「前に言ったよな? 普通の日常生活がとても大事で、人生は平穏無事な方がいいに決まっていて、非日常的な出来事は極力起こらない方がいいって」
「……っ。……聞いてません」
あれ、言ってなかったか? 思ってただけだったか?
「なら覚えとけ、いまの俺の言葉を。クエストなんてもんは平穏無事に終わる方がいいに決まってんだ。依頼主としても、それをやる俺達冒険者としても」
「……っ」
ファラはかすかに目を伏せて、反省したようにつぶやく。
「そう、ですね。仰る通りだと思います。私は、不謹慎に思われるかもしれませんが、どこか期待していたのかもしれません。テロリストとか、そんな大それたことはないにしても、何か、こう、漠然とした非日常的なことが起こると……」
「…………」
「反省します。クエストは無事に遂行出来た方が良いに決まっている。その通りです。私は人々の平穏な日常を守る為に、冒険者として立派に一人前に……」
「あ、ちょっとタンマ」
「え……?」
俺は片手を上げながら言葉を遮ると、彼女に言う。
「矛盾したことを言うかもだが、そんな真面目過ぎる顔にならなくていい。つーか、そこまでシリアスに受け取られると、俺も困惑する」
「へ、いや、だってジークさんが……」
「ああ、言ったな、平穏無事に終わる方が良いって。でもそれはあくまで心構えって意味で、常に真面目にシリアスに何もかもクエストを指示通りに忠実にこなせばいいってことじゃあない」
「……あの、言っていることがよく分からないのですが……?」
「そうだな、まあ、あれだ、要はその場その場の状況に合わせたことをすりゃあいい。もっと気楽に、臨機応変に、やり方は一辺倒じゃないってこった」
「……はあ……?」
ファラはいまいち分からないという顔をしている。まあ、それもそうかもしれない。
俺は背後や周囲にサッと目を走らせて、監視や尾行がないことを確認する。気配はない。あの倉庫からもだいぶ離れているから、俺達の声が聞こえることもないだろう。
俺はファラに言う。
「いいか、俺がいまから言うことは、依頼主の意に沿わないようなことだ。もしかしたらギルドの規約にも抵触するかもしれない、秘匿情報を探ろうとしたってことでな」
「……⁉ な、何を……?」
ファラは困惑したようだ。




