その53 倉庫街
届け先の建物は街の外れにある大きな倉庫であり、近くには似たような倉庫が他にも並んでいた。俗にいう倉庫街と呼ばれている場所だ。
倉庫のシャッターは閉まっていて、隣には関係者の通用口がある。とりあえずその通用口の呼び鈴でも鳴らすとするか。俺は壁に付けられたボタンを押した。
ジリリリリ。甲高く、しかしギリギリ不快にはならない程度の高音が鳴り響く。この街の建築技術も進んだものだ。サポートアイテムのような不可思議な力ではなく、木材や鉄材などを駆使した素材でこんなギミックが作れるんだから。
呼び鈴が鳴ってから少しして、ガチャリ、ドアの取ってが動いてドアが開く。まるで寝起きのまぶたのようにうっすらと細く開かれた隙間に、無精髭が生えた男の顔が覗いた。
「……誰だ?」
「荷物を届けに来たぜ。クエストの依頼でな」
「……品を見せてくれ」
「ほらよ。三つ全部あるだろ」
俺は手にしていた二つを、ファラが持っていた一つを見せる。男はなおも用心深そうな顔つきを崩さないまま。
「……確認するぞ」
「どうぞ、ご勝手に」
ドアがいままでよりも広く開き、男の半身が見えてくる。ジーンズによれよれの上着、まさにおっさんという感じだ。スキンヘッドの店長とは違う感じのおっさんという意味でだが。
俺が渡した二つの小箱を、男は受け取ると上下左右を見回していく。それらが確認し終わると、今度はファラが持つ一つに目を向けた。
俺はファラに言う。
「渡してやれ」
「は、はい」
おずおずとファラが小箱を差し出し、男は持っていた二つを小脇に抱えると彼女が渡してきたそれを受け取った。先の二つと同様に上下左右を確認し、確かに依頼したものだと判断したらしく、小箱に下げていた視線を俺達に向ける。
「……確かに。配達ご苦労。報酬金は後ほどギルドに登録されている口座に振り込まれる。それじゃな」
それだけ言って、ドアを閉めていった。ガチャリと鍵を閉める音。俺は肩をすくめた。
「やれやれ、警戒心の強い届け先なことで」
それから振り返り、ファラへと声を掛けながら歩き出す。
「行くぞ。クエストはこれで終わりだ」
「は、はい……」
俺は腕時計を確認する。まだ昼まではだいぶ時間がある。午前だからなのか知らないが、倉庫街は案外静かで、時おり荷運びの馬車が通りすぎていくくらいだった。
昼間だからまだしも、夜もこれだったら流石に不気味だな。そんなことを思っていると、隣を歩いていたファラが言ってきた。
「……けっこう、早く終わりましたね。届け先に向かう道中も、届けるのも何事もなくスムーズに済みましたし」
「何かあった方が良かったか? 小包を狙うテロ組織にいきなり襲われて、それを取り戻す為に八面六臂の大活躍をする的な?」
「い、いえ、そんな大それたことは……」
ファラは慌てて両手を振る。しかしその手を下ろすと、落とした声音でぽつりとつぶやいた。
「……ただ、ちょっと拍子抜けしたというか、呆気なかったというか……もうちょっと何かあるかと思って……」
そんな彼女の額へと、俺は軽くデコピンした。
「あうっ……⁉」




