その51 秘匿設定
「ぜえはあ……し、死ぬかと思った……生きてる? 私生きてる?」
レノは両手と両膝を床についてそんなことを言っている。俺は溜め息を吐きながら、そんなレノに言った。
「生きてるよ。こんなことで殺すわけねえだろ」
「実際にいま死にかけたんだが⁉」
レノがガバッと立ち上がって叫ぶように言ってきた。元気じゃねーか。
「そんなことより、さっさと空いている受付に案内してくれねえか? 早く午前のクエストを受けたいんだよ」
「そんなこと⁉ 九死に一生を得た私のことをそんなこと呼ばわり⁉」
「いいから早くしろ。それともまた締め付けられてーのか?」
ゴキゴキと音を鳴らしながら手を動かすと、レノは青ざめた顔で無理矢理の笑顔を貼り付けながら。
「こちらでーす。二名様ご案なーい」
そうして俺とファラはようやく受付へと案内されて、午前のクエストを受けることが出来た。
とりあえず最初に受けたクエストは、アイテムショップの荷物運びだ。いわゆる宅配であり、ショップが指定した場所まで荷物を運ぶ簡単なクエストだ。
「なんだ、ジークかよ、受けた奴は」
そのアイテムショップは昨日ファラと一緒に立ち寄った店であり、裏口で待っていたスキンヘッドのおっさん店長が文句を言ってきた。
「おめー、いつもは討伐系や外での素材収集系じゃねーか」
「ファラの初クエストだからな。なるべく魔物との戦闘はないものを選んだんだよ」
俺が親指でファラを示すと、ファラはおっさんに頭を下げながら。
「よ、よろしくお願いします……っ」
「なーんだ、そーいうことか。おう、ファラちゃん、今日はよろしく! まあこれを運ぶだけだから簡単だよ、がっはっはっ!」
豪快な笑い声を上げるおっさんが示したのは、小さな三つの木箱だった。一辺が十数センチくらいの立方体であり、その気になれば一人でも持ち運べそうだ。
「中身を聞くのはありか?」
「なしだ。一応、取引先の相手から秘匿設定を受けてるからな」
ハゲで女には甘いくせに、こういうところはしっかりしてんな。俺はファラに向く。
「ファラ、このおっさんが言っているように、秘匿設定をされている荷物やクエスト内容は基本的に外部に漏らしてはいけないことになっている。まあ当然っちゃ当然だが。もし破れば規約違反で罰金や牢屋行きになりかねないから気を付けろよ」
「は、はい……っ」
まあ、あくまでバレたらの話だが。そういうことはファラにはまだ言わないほうがいいだろう。
「ちなみに秘匿設定は色々と細かく決めることが出来るが、今回の荷物に関しては運搬する俺達にも知らされていない高度秘匿設定だな。中身を知ってんのはクエスト発注者、つまりこのおっさんと運搬先の相手だけだ」
「は、はい、分かりました」
ファラが緊張したように答えた時、おっさんが意外そうな声を出した。
「なんだ? 聞いてないのか? 俺は確かに荷物を用意したが、クエストの発注者じゃねえぞ」
「何……?」
振り向いた俺におっさんが続ける。
「俺は依頼を受けてアイテムを用意しただけだ。いわば仲介者だな。クエストの備考に書いてなかったのか?」
「いや……」
クエストには指定された場所で受け取った荷物を運搬する……とだけ書かれていた。ギルドの受付嬢やレノもそれ以外のことは言っていなかった。




