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その5 もうどうでも


「それで? 俺にどうしてほしいんですか?」

「……え……?」


 女がこっちを見た。


「そんな湿っぽい話を聞かせて、慰めてほしいんですか? それとも相手の女にも報復をしてほしいんですか? 私の婚約者をよくも横取りしてくれたわねって」

「……そ、それは……っ」

「俺は貴方の知り合いでも友人でもない初対面ですし、貴方だってあの男のことは好きじゃなかったんですよね? ならもうどうでもいいじゃないですか。それともやっぱり好きだったんですか?」

「い、いえ……それは彼の言っていた通りで……」

「ならいつまでも未練たらしく泣き言を言ってないで……」


 その時、俺の頭に衝撃が走った。


「痛ってーっ⁉」


 俺はカウンターに突っ伏してしまう。頭を手で押さえながら後ろを見ると、銀盆を手にしたウエイトレスがニコリと笑顔を張り付けていた。


「お客様。当店では他のお客様への言葉責めは許可しておりません。言動はお慎みくださいませ」

「だからってそれで殴るこたねえだろ⁉」

「お言葉ですがお客様、私は殴るなどという野蛮なことはしておりません。お仕事疲れたなーと身体を伸ばしていたところ、偶然手に持っていた盆が触れてしまっただけでございます」

「だったら謝罪の一つくらいしろよ! 殴るつもりじゃなかったんなら……」

「…………。それではお客様、私は仕事の続きがありますので」

「おいこら!」


 ウエイトレスは背を向けてさっさと行ってしまう。やっぱりわざとじゃねえか!

 ってゆーか、彼女ってああいう子だったの⁉ もっと清楚でお淑やかなイメージだったんだけど⁉

 人は見た目じゃ分からない。今日は身をもって知らされる日だな。

 俺が半ば落ち込んでいると、不意に隣の女が言った。


「……そうですね。貴方の言う通りだと思います。もう彼のことは忘れて、前を向きましょう。私の家族にも説明しなければいけませんし」


 どうやら立ち直ったらしい。暗かった瞳に光が戻っていた。

 そして女は俺に向き直ると、何故か分からないが一つ咳払いをしてから。


「自己紹介がまだでしたね。私はファラ、ファラ=オータムと申します。差し支えなければ、貴方のお名前を教えていただけませんか?」

「……何故に?」


 つい口から出てしまった。


「え?」

「え?」

「「え?」」


 俺と女は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。


「「…………」」


 女が焦ったように言ってくる。


「だ、駄目ですか? せっかくこうして知り合ったのですから、名前くらいは知りたいと思ったのですけど……」

「いや、駄目じゃねえけど。わざわざ俺が自己紹介しなくても、もう知ってんだろ」

「え……?」

「いやだから、さっきあのウエイトレスが他の客から俺のこと聞いたって言ってただろ。なら、俺の名前はもう知ってんだろ」

「……あ、ああ、そういう意味でしたかっ。てっきり……」


 てっきり?



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