その45 『糸化』
「喧嘩かよ」
「らしいねー」
俺とレノがつぶやく。と、そこで店員の制服を着たおっさんが恐る恐るといった感じで男達の前に出た。他の店員から店長と呼ばれていたおっさんだ。
「お、お客様? 当店での喧嘩はご遠慮頂きたいのですが……」
「うるせえ!」「しゃしゃり出てくんじゃねえ!」
「は、はいぃっ! すみませんでしたぁ!」
即座に退散する店長。まあ武器を持って殺気立った野郎二人に威嚇されたら、そらそうなるわな。
他の店員達も慄いていた。辛うじて震え声で官憲に通報するように言い合っている。
……やれやれ。俺は立ち上がろうとする。その俺のやることに察しがついたのか、レノが俺の腕を取って引き止めた。
「やめときなって。また行ける店が減ってもいいのかよー?」
「そうは言ってもな。このまま見過ごすわけにもいかねえだろ」
「だーかーらー、お前が関わると被害が拡大するんだよー。いいから黙って座ってろって」
人を指定災害みたいに言うな。と文句を思っていたら、男達の方からガッシャーンと大きな音が響いてきた。そちらに向くと、さっきまで一触即発だった男達は床に伸びていて、目を回していた。
頭の上にひよこが回っているイメージ。男達は気絶しているようで、周囲の客や店員達はいきなりのことに驚いていた。
「なんだなんだ⁉」
「いきなり転んだぞ⁉」
「とにかく助かった!」
口々にそう言っている。
俺はレノを見た。彼女はウィンクを返してきた。やりやがったなこいつ……俺は深い息を吐きながら改めて席に座る。
「そうそうそれでいいのさー。ゴタゴタも片付いたみたいだしなー」
すっとぼけたようにレノが言う。俺は呆れた目を向けた。
「よく言うぜ。お前がやったんだろ」
「何のことかなー? 私はあいつらの足元にほっそーい糸を巻き付けただけだぜー」
やっぱりな。
こいつのスキルは『糸化』。生物以外の、触れたものを糸のように細くする能力だ。
「その糸を引っ張って転ばせたんだろうが」
「どうかなー? あいつらが勝手に転んだだけだろー。言い掛かりはよせよー」
「よく言うぜ。裏で糸を引いてるようなお前に相応しいスキルだしよ」
「にゃははー、黒幕とかラスボスっぽいっしょ?」
「お前が敵でなくて本当に良かったって思うぜ」
「何でもかんでも純粋なパワーで解決する脳筋には言われたくないなあ。私の糸だってゴリ押しでぶち破ってくるしさー」
「よくそんな昔のこと覚えてんな?」
ずっと前、レノとパーティーを組む前にひょんなことからこいつと一戦交えたことがある。んで、その時になんやかんやあって、何故かこいつにパーティーを組むことを誘われて、以来しばらくの間行動を共にしていたわけだ。




