その44 バクバクムシャムシャゴクゴク
早速メニュー表を覗き込みながらレノが言ってきた。
「好きなの頼んでいいぞー。今日はお前の奢りだからなー」
「なんでだよ。そこは私の奢りだって言うだろうが普通」
「ちぇー、ジークはケチだなー」
「いやケチとかそういうのじゃなくてな……」
「それじゃしょーがないから、割り勘ってことにしよーか。本当にジークは仕方ねーなー」
「なんで俺が悪いみたいな言い方なんだよ。あと自分の奢りにはしないのな」
「してもいいけど、後で返せよー、全額ー」
「実質俺の奢りになるじゃねえか! はあ、もういいよ割り勘で」
「よっしゃ食うぞー」
「……これが狙いだったなテメー……」
半額で食う為に俺を誘ったのか。こいつはいつもこんな感じだったな、冒険者だった時から。
ひょうひょうとしていて、ふざけた感じで、人をおちょくってくる。それでいて抜け目がなく、油断すると足元を掬われそうになる。
味方としてはかなり頼りになるが、敵としては対立したくないタイプの奴。ある意味では、冒険者をやめてギルドの職員になったのは良いことだったかもしれない。他の冒険者に悪影響が出にくくなるという点で。
まあギルドにいる以上、とばっちりを受ける奴は少なからずいるだろうが。主に俺が。
バクバクムシャムシャゴクゴク。
「プハー生き返るねい」
「どんだけ食うんだよ」
なんか冒険者時代より食ってねえか?
「仕事でストレスが溜まってんのさ。食わなきゃやってられんのよ」
「太るぞ」
「女の子にその言葉は失礼だぞー。まあわたしゃー太らない体質なんだけどさ。冒険者時代に鍛えまくってたおかげで」
「羨ましい限りだな」
「そーゆージークだってそうだろーが」
「まあな」
「ほらみろ」
何がおかしいのか、レノは笑いながら隣に座る俺の背中をバシバシと叩いてくる。痛みはそれほどじゃないが、うっとうしいな、おい。
「まさか酒飲んでんのかお前」
「なーに言ってんの、酒なんて頼んでないだろー」
素面でそれかよ。あるいは場酔いとかいうやつか? それにしてもよく食う奴だ。どんだけストレス溜め込んでんだよ。
なおも飲み食いし続けるレノに嘆息を漏らした時、不意に男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「ああ⁉ 何だとテメー!」
「おお⁉ やるかテメー!」
俺とレノはそちらを見る。体格のいい二人の男が互いに胸ぐらを掴んでいた。着ている服装からして、片方は剣士、もう片方は槍使いといったところか。
男達はそばに立て掛けていたそれぞれの武器を手に取り、いまにも戦いをおっ始めようとしている。周りの客達はビビっていて、店員達もおっかないのか近付こうとしていない。




